湖のほとりで

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湖のほとりで

   満天の星が瞬く空の下、三人の青年と一人の中年の男が焚き火を囲んでいた。 「なあ、本当なのか? そいつがまだ生きてるって」  一人の青年が酒に酔った中年の男に尋ねる。 「ああ。おそらくな。奴の顔を見て思ったんだ。王都の『罪人の壁』に貼ってある、ビョルンとかいう脱走兵の似顔絵とよく似てるってな。死んだって言われてるが、死体はまだ見つかってないらしい」  男は下品な音を立てて酒を飲んだ。 「人違いじゃねえの、おっさん」 「でもそいつ、何かを知ってるみたいだ。トロールという言葉を聞いて、目の色を変えたからな。罪人の壁から盗んできた似顔絵にもそっくりだ。ほれ、見てみろ」 「盗んでくんなよそんなもん。ひっぺがしてきたのか?」  男が差し出したくしゃくしゃの紙には、ビョルンという青年の似顔絵と身体的な特徴が詳細に書かれている。 「で、でも、もしそいつが例の脱走兵だったら?」  三人のうち一番気弱そうな青年が尋ねた。 「それなりに金は貰えるだろうよ」  男がゲップをしながら答える。 「おい、おっさん。あんた酒飲み過ぎだぞ? 大丈夫か?」 「シーッ! いいじゃねえか。もっと飲ませて、情報聞き出そうぜ」 「ところでおっさん、あんた王都から来たのか? 普段は何してる人なんだよ?」 「まさか軍の関係者とか、暗殺者とか?」 「いーや。俺はただの賞金稼ぎだ。今さら、馬鹿なタマなし脱走兵のことなんて、王サマは散らばったゴミ程度にしか思っちゃいねぇだろ。わざわざ軍の人間なんて動かさん。俺たちみたいので十分だ。ああ、ちょっと待て、吐きそうだ……」  男はそう言って立ち上がると、千鳥足で歩き出した。
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