問題１－１『f(0)=1,f(1)=3,f(2)=2,f(3)=4となる三次関数f(x)を求めよ』　ふむ、これは係数をそれぞれ文字で表せば、与えられた式を視覚化することができる。まずは、やってみよう。　求めたい三次関数f(x)を、 f(x)=ax^3+bx^2+cx+d と置く。そして、それぞれにxの値を代入していく。 f(0)=a×0+b×0+c×0+d=1・・・<1> f(1)=a×1+b×1+c×1+d=3・・・<2> f(2)=a×2^3+b×2^2+c×2+d=2・・・<3> f(3)=a×3^3+b×3^2+c×3+d=4・・・<4> 　うーん……。このままでは、読みづらいな。計算してすっきりさせよう。<1>は、0をかけてあるから、d以外の文字は全て消えるはずだ。 <1>より、d=1・・・<5> <2>より、a+b+c+d=3・・・<6> <3>より、8a+4b+2c+d=2・・・<7> <4>より、27a+9b+3c+d=4・・・<8> 　この結果を、残りの式に代入すれば、文字を一つ消すことができる。文字が三つなら、連立方程式を使えば、残りの文字の値も特定することができるはずだ。 <6>より、a+b+c=2・・・<9> <7>より、8a+4b+2c=1・・・<10> <8>より、27a+9b+3c=3・・・<11> <10>-<9>×2より、6a+2b=-3・・・<12> <11>-<9>×3より、24a+6b=-3・・・<13> <13>-<12>×3より、6a=6 よって、a=1となる。 a=1を<12>に代入すると、6+2b=-3 よって、b=-9/2となる。 a=1,b=-9/2を<9>に代入すると、1-9/2+c=2 よって、c=11/2となる。これで、四つの文字の値は全て求まった。あとはこれらを、求めたい三次関数に当てはめていけばいい。解答１－１『f(x)=x^3-9/2x^2+11/2x+1』「君、何をやってるの？」　あまりにも集中していたためか、俺は背後から発せられた声に気が付けなかった。「それ、三次関数の問題だよね？」　さっきよりも少しトーンが高い声と共に、俺の左肩が軽く叩かれた。ようやく、俺も背後に人がいることが理解できる。振り向くと、小柄な男子が立っていた。くりくりとした大きな瞳に、顔の３割ほどを占めている長い前髪。口と鼻は小さめであり、どこか幼さを感じるような童顔をしていた。声質的に、雪菜の会話をしていた三人組の男子の誰でもない……はずだ。　よく見ると、その口元が若干吊り上がっている。彼も数学に興味があるのだろうか。「そうだよ。えっと、君はたしか……。」　そうだ、彼はさっきの自己紹介の時に、数学が好きだと言っていた男子だ。雪菜のことを気にしていて周りのことを気に留められていなかったと思っていたが、名前を憶えている。「悠くん、だったよね？」　俺の言葉に、彼は首を縦に振る。おそらく、合っているということなのだろう。悠は２，３回首を縦に振ると、俺の机の上にあった参考書を覗き込んだ。「三次関数を導く問題か。僕も以前やってみたことがあるんだけど、僕の解法も見てくれない？」　顔をほころばせ、無邪気に笑う悠。同級生だというのに、なぜか人懐こい後輩のように思える。　特に断る理由もなかったため、俺は悠の提案を受け入れた。悠は再び笑顔で頷くと、俺からノートとペンを受け取り、自分の考えをノートに書きこんでいった。俺と違って数字はおろか、添えられている文章も綺麗に整っている。悠の几帳面さが手に取るように伝わってきた。「僕は差分法を用いるよ。」　差分法。18世紀にオイラーが考案したといわれている、偏微分方程式の数値解法として支配的な手法だ。俺も以前少しだけやったことがあるのだが、基礎的な部分をかじった程度のため、応用することはまだできない。「まず前提として、前進差分演算子ΔをΔf(x)=f(x+1)-f(x)で定義するよ。」 (n)_k=n(n-1)・・・(n-k+1)、つまりnからk-１になるまで１ずつ引いていき、それらの積を計算する式を置く。「これを下降階乗冪というよ。やっていることは順列の計算と同じだね。」 (n)_kの前進差分を計算すると、 Δ(n)_k=(n+1)_k-(n)_k=(n+1)(n)_(k-1)-(n)_(k-1)(n-k+1)=k(n)_(k-1) となる。これは、単項式の微分と一致するので、その点で(n)_kはn^kに対応する。「ここまでが今回使用する差分の概要だよ。じゃあ実際に、これを使って三次関数を求めてみるよ。」　求めたい三次関数を、 f(x)=A(x)_3+B(x)_2+Cx+D と置く。　ここで、f(x)の差分を次々とやると、 f(x)=A(x)_3+B(x)_2+Cx+D・・・<1> Δf(x)=3A(x)_2+2Bx+C・・・<2> Δ^2f(x)=6Ax+2B・・・<3> Δ^3f(x)=6A・・・<4> Δ^4f(x)=0・・・<5> となる。微分と同じように次数が一つずつ減り、四回微分をすると0となった。x=0を代入すると、一次以上の項が消えて、定数項を取り出すことができる。 <1>より、f(0)=D・・・<6> <2>より、Δf(0)=C・・・<7> <3>より、Δ^2f(0)=2B・・・<8> <4>より、Δ^3f(0)=6A・・・<9> <5>より、Δ^4f(0)=0・・・<10> 　これによって、A,B,C,Dが求まり、f(x)が分かる。「実際に差分を計算するときは、次のようなピラミッドを書くよ。」 k=0：1　3　2　4・・・<11> k=1：2　-１　2・・・<12> k=2：-3　3・・・<13> k=3：6・・・<14> k行目の連続する二数の差を計算して、k+1行目に書く。このピラミッドのk行1列にある数がΔ^kf(0)である。つまり、ピラミッドの一番左の数を利用するわけだ。 <6>,<11>より、D=f(0)=1 <7>,<12>より、C=Δf(0)=2 <8>,<13>より、2B=Δ^2f(0)=-3⇒B=-3/2 <9>,<14>より、6A=Δ^3f(0)=6⇒A=1 　これらの結果を、求めたい三次関数に当てはめる。 f(x)=(x)_3-3/2(x)_2+2x+1 　最後に、この式を計算すれば、求めたい三次関数を導くことができる。 f(x)=x(x-1)(x-2)-3/2x(x-1)+2x+1=x^3-9/2x^2+11/2x+1

0章 プロローグ

0章　　プロローグ