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「死んだ記憶がない幽霊なんてたくさんいるよ。忘れていることについて思い当たる節はないか?」 「思い当たる節……。私はただかくれんぼをしていただけで、気がついたら幽体になっていたのよ」 「幽体って言っている時点で、自分が死んでいることを察しているようなものじゃないか」  綾くんの言う通りだ。  道中、もしかしたら私は死んでいるんじゃないかと、実は腹の中で案じていた――本当は私は死んでいるんだって、どこか諦念していたところもある。  透明化なんてとってつけた案もありえないだろうなと、腹の中では思っていたし。 「『気がついたら』ってどういうことだ?」 「それが分からないの。隠れている最中に眠気が来て寝落ちしちゃったというのが私の見解なんだけれど……」 「見解」 「直前の記憶がないからあくまでも推測だけれど」 「そこにあるのかもな」  と、綾は言った。 「『気がついたら』――隠れてから死ぬまでの間の出来事を、お前は忘れているのかもしれない。急性の病気を発病して激痛が及びそのショックで記憶をなくしたか、それとも誰かに頭部を殴られてそのショックで記憶をなくしたか」  その二択を提言されること自体も相当ショックである。が、記憶がないせいで両方を否定することができない。幽体離脱という現実逃避をしていたのは、曖昧な記憶を忘却するためでもあった。
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