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「だけどまあ、お前の歳で心臓発作やら心筋梗塞やらはほとんどありえないな。お前の家族も煙草を吸わないらしいし、お前も無駄な肉がついていない体型だから不健康ということはないだろう」  まあ、私も前者はないなと思っていた。大きな病気に罹ったこともなければその兆候もなかったし、病気の苦しみでもがき苦しんでいればなにかしらの痕跡があり、事件性があるとみなして一週間が経った今でも神社の雑木林一帯はキープアウトされているだろう――って、 「ちょっと待って、綾くん――いや、変態くん」 「変態くん!?」  綾くんは首を傾げた。そして後ろを振り返り、誰もいないぞと言わんばかりに顔を顰めた。 「いや、変態くんってきみのことよ。体型のことはともかく、どうして私の家庭事情まで知っているの?」  私の家族に喫煙者がいないという話はクラスでしたことがない。家に遊びにきた子達なら言わずとも知っているだろうが、綾くんにはそんなことを一言も話していない。そこまで親しい間柄じゃないのだ、私達は。教室の席でさえ隣になったことがない。 「家庭学習ノート」  綾くんは言った。 「一ヶ月前に先生に、全員の家庭学習ノートの返却を頼まれたんだ。そのときにお前のノートの表紙を見て、丁寧に使っているんだなと思ったんだよ。綺麗な字で、目立った傷もなく。それに、ヤニでつく黄ばんだ汚れがなかった。だから禁煙家、もしくは喫煙の配慮を徹底している家庭だと推理した」  彼が『推理した』なんて言うと、まるで本当の名探偵なのではないかと印象操作させられるほどの風格と説得力を感じた。私には似合わない台詞だ。 「すごいね、綾くん。推理力があるんだ」 「こんなの初歩の初歩だ」  と、私から目を背いた。またも名探偵の名言が出ている。 「将来はチェア・ディテクティブかな?」 「俺は探偵になんかなれねえよ。雑学を披露しただけだ」  まあ、そんな性格じゃないわな。ヤニのことにしたって彼の言い分を額面通りに受け止めるほかないわけだし――それを否定する雑学を持ち合わせていないのだ。だから、彼に期待をかけるのはこちらの自己満足でしかない。  だが、私には彼の閃きが必要だった。  これでもしもことが達成されれば、守護霊となって一生彼と添い遂げようじゃないか。  その前に――勝手ながらその前に、だ。  綾くんの秘密を解き明かさなくてはならない。
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