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「俺は物心のついていない小さい頃からこの能力が使えた。  人や動物に混じって不思議なものが見えたんだ。それを親に伝えたら、最初は冗談としてとりあってくれなかった。  けれど何度も言っているうちに気味悪がられて、それで有名な寺院の住職に診てもらうと、よくないものを見る力があると診断されたんだ。  俺はなんとなく分かっていたから驚きはしなかったけれど、両親は愕然としてしばらくはその場で呆然としていたよ。  ……それで終わればよかったんだ。霊が見えるってだけで掌を返して両親が過干渉をしなければ、俺はもっと明るくて親交的な性格になっていたはずなんだ。  ……だけど、そんな俺の心境に構わず、両親は俺を有名にさせたがった。偽物じゃない本物の霊能力者なんだと周囲に言いふらして、挙げ句の果てにはその証拠をビデオで撮らせてテレビ番組に投稿しやがったんだ。もちろん、無理強いされてね。  行きたくもない心霊スポットに連れて行かれたり、近所の家に幽霊がいないかを探知させるために深夜に歩きまわされた――そうやって、俺の凄さを引き立たせるためにあらゆる手段を使ったんだ。  その甲斐あって――むろん皮肉の言い回しだけれど――、俺はいっときテレビに出演していたんだ。『ゴーストコンダクター・アヤ』って知っているか? 親のつけた異名だ。奇妙だと思うか? 俺は微妙とも思えないね――クソとしか思わないよ。そんなニックネームで三年くらい前に心霊番組とかの引っ張りだこになっていたんだ。  『なったんだ』ということは、考えるまでもなく、テレビを観ていれば分かるように、しばらくすれば流行に基づいてお払い箱になった。連中が俺を必要しなくなったとき、心底ほっとしたね――ほっとした。  ほっとしたんだ。  だけど、トラウマが残った。  親に酷使されただけじゃなく、テレビにもさんざん利用された。引っ張りだこと言っても大したギャラも払われなかったし、霊能力と関係のないテストをさせられて失敗したらこぞって批判を浴びせてきた――そんな具合に、大人に身勝手に貶められて、俺は相当やられていた」  ううっ、と綾くんは苦しそうに顔を歪ませた。
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