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「芸能界で躍進している子供なら、これくらいの騒動をむしろ目立つチャンスとして利用してのけるメンタルがあるんだろうが、俺にはそんなものはなかった。  子役を目指していたわけじゃないし、自分が両親のように名を挙げて儲けようなんて考えていなかった。なのに、世間からも冷たい目で見られるんだ。  想像してみろよ――いや、できるはずがないか。想像できたらお前は俺以上に壮絶な人生を歩んでいたことになるからな。公園を駐車場に変えられたことへの恨みなんかちっぽけなんだよ。  俺からしちゃあ悩みでもなんでもない。辛かった――苦しかった――悲しかった――憎かった。だけど、それ以上に――忘れたかった。  だから、俺は地元からここに引っ越してきた。  引っ越しには母方の祖父母も協力してくれた。かねてより俺の両親をおかしいと思った彼らが、俺と一緒に両親から逃げるように地を転々としてくれたんだ――今も両親に追われている。栗ヶ矢町は八回目だ。この町も半年で去るだろう。この逃亡生活もいつまで続くか分からないし。  川原、お前が訊いた『霊視できることをどうして今まで黙っていたの?』ってことなんだが、こういった事情なんだよ。両親が引き起こしたトラブルのトラウマを忘れるために、みんなには秘密にしておいたんだ。  テレビに使い捨てにされて随分時間が経っているから、暴露しなきゃばれないと踏んでいたけれど正解だった。過去を黙っていたおかげでこれまでクラスメイトにはばれていなかった。巡り会った先生も理解があって、俺のことは黙っていてくれている。保護者にも根回しをしているようだから、俺は平和に暮らせているよ」  明かされた綾麗夜の謎。子どもが知るよしもない子どもの真実。  とても小学生とは思えない修羅場を歩んできた彼にかける言葉を、私は見つけられなかった。彼の過去を拭えるだけの経験を有していなかったのだ。  当たり前だ。そんな経験をしていれば、私だってこの町にいられない。彼のように行方をくらますだろう。  芽生えた罪悪感しかない。 「そんな経験則によってお前が死んだと決定づけたんだ。幽体離脱している奴ってのは頭から細いもやが出ているんだぜ」  ばっ、と頭を抑えた。もやが延びているかを確かめる行動だったが、不思議なことに、霊体(『すでに死んだ身』と表現しているあたりから『幽体』と自称するのを諦めた)の私と綾くんの掌が接触しているのだ――掌が接触しているのは確実なのに、触れていないような感覚に陥った――触れていないような感覚とはこれまた矛盾した表現だが、それが驚くことにしっくりくるのだ。
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