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「どうだった? 幻滅したか?」  綾くんは自虐的な笑みを浮かべた。 「そんなことないよ。むしろ話してくれてありがとう」  でも、と私は続ける。 「どうして私にそのことを話してくれたの?」  結構深刻なバックグラウンドを打ち明けてくれて親近感も湧いたので、深掘りをしていきたいと思った。もしかしたら私に気があるのではと、淡い希望を覚えたのも理由のひとつだ(死んでいるけれど)。  綾くんは私の質問への回答を、しかしあっけなく出してくれた。 「愚痴を言いたかったんだ。絶対にばれたくない秘密を持っている生活は疲れるんだよ。目立った行動も秘密の露見に繋がるから控えなきゃいけないし。俺がこうして夜な夜な散歩しているのは唯一の発散方法なんだ。家にいてもじいさんばあさんに負い目を感じるだけだからさ、彼らが寝たこの時間帯に町を探検をしているんだ。俺は元々おしゃべりでね、こうして話して、気が楽になりたかったんだ。ありがとう」  ありがとう、という言葉を綾くんの口から聞く日が来ようとは思いもしなかった。無口で仏頂面で、学校で挨拶もしない彼が、私にお礼を述べたのだ。私も彼へ「どういたしまして」と、返事をした。 「こういう話はお前にしかできないからな、すっきりしたよ」  そうだ。そんな重要な話をどうして私に――私にだけしたのか、よく分からない。またも胸が躍る。本で読んだことがあるけれど、秘密の共有は恋愛テクの常套手段らしい―― 「お前が幽霊で本当によかったよ」 「…………」  雲行きが怪しい。 「誰からも見えないし、言葉も聞こえないからなんでも打ち明けられる」 「…………」  複雑な心境である。私を頼りにしてくれて嬉しい限りだが、幽霊である利点が真っ先にあげられるのは、なんだろう、とりあえずこれじゃないとは思える。  綾くんはまだらに発光しているペットボトルを掴み、中身を飲んだ。光源の懐中電灯ははずみで倒れる。すると、光が消滅した。綾くんはそれに特別驚きはしなかったものの、ペットボトルから口を離すや、舌打ちをした。飲み口に蓋を閉め、適当な場所に置き懐中電灯を弄り回してみるも、大口のレンズに光は灯らなかった。  綾くんは「もう寿命か」と、ひとりごちた。ぱっと見旧い型だから、緩衝材なしでの転倒は再起不能へと直通するのは必然と言えた。逃亡の協力者である祖父母からのおさがりだろうか。
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