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 諦念を込め、鼻でひと呼吸おく。やがて、リュックに荷物を全て詰めた。  そして、綾くんは足の先を来た道に向け、歩き出す。  懐中電灯の破損が気に障ったのかと思ったが、大きく欠伸をかいているところを見ると、どうやら怒りは抱いておらず、ただただ睡魔が忍び寄っているご様子。  観察していると、綾くんは振り向いて後ろからついてゆく私にこう訊いた。 「俺の愚痴を聞いてくれたお礼だ、俺にしてほしいことはないか」  唐突だった。しかし、それはあまりにも遅すぎる。  何度も申し上げるが、私は幽霊となってしまった。認めたくはなかったけれど、死んでしまっているのだ。  つまり、彼にお礼を行使して友達になってと頼んでも普通に遊べやしないし、プレゼントを要求しても役に立たない。  もっとも、欲しかったものを渡されたらそれはそれで成仏できなくなるリスクもあるが。  ならば、私も愚痴の相手をしてもらってはどうだろうか。これならば、私の気がいくらか晴れるし、物理的な贈り物よりかはマシだろう。  突然死んでしまい、言いたかったことが山ほどある。これを文字に起こし、文章の長さを測ると富士山の頂上を越える自信はある(ちなみに幼少期、私は『万里の長城』をものすごく長い頂上だと誤解していた)。  さすがに地球一周とはいかないが、日本横断はできそうだ。 「…………」  その路線で行くのなら、どうせなら私にできないことを頼もうか。  たとえば、私の帰りを待つ両親のもとに私からのメッセージを伝えさせるとか。  幽霊の声は一般人に聞こえないのなら、聞こえる綾くんが伝達役となることでそれが可能になる。  ただ、私の両親が彼を知っているかどうかである。保護者会で周知されているだろうが、興味がなければ、それらのことは希薄となってしまうものだ――そんな白状な保護者はこの町にはいないだろうが。  綾くんが両親にメッセージを伝えたところで、彼を知らなければ狼少年だと、彼に説教をするだろう。それは私としても心苦しい。  彼を知っている可能性は、実のところ薄いしね。テレビを見ていて、彼を話題にあげた記憶がないから。  両親が興味がなかっただけなのだ。
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