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このままでは行く宛もない私は綾くんの帰宅に同行することにした。自分の家に戻るという方向もあったのだが、綾くんに「幽霊の消滅って除霊が有名だけれど、自然消滅も可能性としてあるぞ。そうなればお前も浮かばれないだろう。俺のそばにいれば突然の消滅を防ぐことができるぜ」と助言されたので、あやかることにした。
そんな話は聞いたことはなかったが、数々の霊を相手にしてきた専門家の論説を打ち負かす上等の知識を持ち合わせていなかったから、そうするしかなかった。
郷に入っては郷に従えじゃないけれど、こういうときは専門家に従事しとくべきなのだ。
幽霊となった私はどうやら睡眠いらずのようだ。寝ようにも寝れない。眠くもないし、なんなら今から学校のグラウンドを百周しようと四十八時間ぶっ通しで勉強しようと、睡魔に襲われることはないと自負できる。
そうでなくてもだ。
異性のクラスメイトのお宅で、しかも彼と彼の祖父母との川の字に挟まれては、人間の頃でも眠れない。ちなみに綾くん達が住うアパートは町内最古の物件で、改築がなされていないうえに六畳一間という、三人で住むには破格の狭さを誇っている。
眠れない私を放っておいて綾くんは眠りについた。彼を見ながら、いつか眠りたいという欲求すらもなくなるのかなと、人間時代には思い浮かばなかった恐怖を覚えた。だけどすぐに、でも身体が見つかるまでの辛抱か、と開き直るあたりは私らしい。
幽霊の環境に迎合するしかないので、腰の据わりもどっしりしてきた。
家の中を散策するのも忍びないので、川の字から外れて布団から畳に寝そべった。天井を仰ぎながら、身体探しの件を思い出す。
……ああ言われたら、本当は断るべきなのだろう。彼の忌まわしい裏事情にぞんざいに触れる行為にあたるからだ。無理をしたに違いない。そんなことは分かっている。だけど、私の口は了承を唱えていた。
無意識じゃない、意識的に、だ。
甘えてはならないと思う一方で、甘えなければチャンスはないとも思っていた。
身体が――死体が見つかれば両親を安心させられるという、チャンスが。
つまり、綾くんのトラウマよりも私の利益をとったのだ。
私は悪い人間だ、いや、悪い幽霊だ。
悪霊だ。
でも、悪霊でもいいじゃないか。
死んでしまったのだから、なにもできないのだから。
利用してもいいじゃないか。
利己的になってもいいじゃないか。
……違う。この立ち直りかたは違う。
気にしなくてもいい、なんて綾くんは言っていたけれど、それに身体探しを協力してくれる理由について、
「もし俺が死んだら、祖父母が悲しむだろう。お前の両親もそのはずだ。だから、せめて身体だけでもお前の家に送り届けたい」
と言っていたけれど、だけどそんな言い訳で私の気が休まるわけがない。睡眠でもできれば気の回復は少し叶うだろうが、幽霊とは厄介なものである。
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