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7
私と綾くんが向かった場所は栗ヶ矢神社だった。私の身体が発見されますように、と願掛けをしに来たわけではない。神に頼るほど私達に余裕はなく、藁にもすがる思いだ。
だから、こうして登校時間よりも早くに家を出たのだ。ご飯を抜いた朝はこれが初めてだった。一方で、綾くんは朝食を食べていない。どうやら自主的に朝食を抜いているらしかった。炊事担当の綾くんのお婆ちゃんはさも当然のように、おじいちゃんと自分との分しか用意していなかった。
「晴れてよかったな。雨だったら早起きした意味がなくなるぜ」
境内に続く階段を昇るとそんな感想が彼から述べられた。向かって左を見たのは、地平線からようやく全体が見えた太陽を拝むためだろう。気温自体は秋口らしいものだが、煌々しくて霊体でさえ燃え尽きそうだった。
そういえばと、あることを思いながら「こっちだよ」と先頭に回り、彼を案内する。ついでにその思いついた疑問を専門家にぶつけてみた。
「私って今現れていてもいいの? 幽霊って夜に出るじゃない。なのに、朝こうして活動していてもいいの? 吸血鬼のように太陽の光に焼かれたりしない?」
「しないって言ったら嘘になるな」
「嘘っ!?」
「嘘だよ」
こっちは消滅の危機かもしれなかったのに、人の気も知れずにくくっ、と笑みをこぼす綾くんだった。
「まあ、幽霊が朝出ていても平気だよ。太陽なんて兵器にもならない。だからお経やお札があるんじゃないか。そもそも幽霊に朝も昼も夜もねえ」
「じゃあ、なんで幽霊は夜に出るなんてイメージがついているんだろう」
「夜は人の警戒心をあおる時間帯だからかな」
「あおったらどうして幽霊に遭うのさ」
好奇心旺盛だなあ、と言われた。
「違う。警戒心が出るから些細な自然現象も襲撃者だと見紛って、それが幽霊に見えるというのが大半なのさ」
それこそシミュラクラ現象か。霊的存在のほとんどを科学的根拠で説明できるようになった昨今で育った私は驚きもしない。
まあ、科学というより心理学の管轄になるのかな。
「大半、ということは例外はあるの?」
「例外は俺のように実際に幽霊の見える人種さ。一過性で霊視できるパターンもあるけれど、そいつは希少だ」
つまり、今私がこうして彼の前にいるのは不思議なことではあるが不自然なことじゃないってことか。
「ただし、霊の性質によっては太陽に弱い場合があるからさ。注意してくれよな」
「どう注意すればいいのよ!? 太陽の光をひりひりと感じているのは私にその性質があるかもしれないのに!」
「その程度だったら日焼け程度で済むんじゃないか?」
日焼けって……。そもそも幽霊に肌はないはずだけれど……。
肌がないのにひりひりするって変な感覚だ。
「この辺か?」
綾くんは足元を顎でさした。私はひとつ頷く。トークしている間に私が倒れていた場所に着いていた。彼はなにも言わずに辺りを探索を開始した。
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