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部屋には半裸の女が泣き崩れていた。
その姿を見た男は、狼狽と怒声混じりの叫び声で女に問いかけた。
「どうした!? 一体何があったんだ!!」
女は消え入るような涙声で細々と話しはじめた。
「あなたの親友の……あの人が突然襲ってきたの。そして私のことを無理やり……」
「なんだって!?」
お互いに視線は合わせられないようだ。
それはそうだろう。
愛する男にこのような姿を見られてしまっては、悔しさと情けなさとで、とてもではないが直視などできるはずがない。
それは男もまた然り。現実を認めることができないでいる。
しかし、その禍々しい事件は実際に起ってしまったのだ。
いやでも、向き合うしかない。
男は怒り任せに壁を殴りつけ、そして吠えた。
「くそっ! あの野郎! 待っていろ、今すぐ仇をとってくるからな!」
そう言い残すと男は部屋のドアを勢いよく開けて、外へと飛び出した。
女は、その背後だけを見続けていた。力強く、頼もしい後ろ姿を。自分のために怒り、そして仇討ちに武者震いするその背中を。
そして、数時間後。
「はぁはぁ……」
力強く開け放たれたドアの向こう側には、息せき切った男の姿が。
そして、
「仇、討ってきたぞ」
右手の親指を立てて力強く微笑むその表情は晴れやかだった。
頼もしい男の姿に女は改めて惚れ直した。
「大丈夫?」
心配し、声をかけた……が、しかし、よく見るとアザや打撲などが見受けられず、まるで怪我もしていないようだ。
「ああ、きっちり型にはめてきたぞ」
そう言い切るわりには、ただ一筋の擦り傷すら見受けられない。変な意味で心配になる。
「相手の方は大丈夫だったの?」
「さあてな、三回もブチ込んでやったからな」
違和感を覚えた女が問うた。
「三回? 三発じゃなくて?」
「まぁ、三発ともいうな。仇討ちにやつの女を……」
ずっこける女。
そして叫んだ。
「アホかい! そんなもんなんの仇討ちにもなってないだろうが!」
【終わり】
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