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“現代的とも言える技術革新が起こった「魔法のある」光と闇が混在していた世界での出来事”
「一目惚れした! 俺と結婚してくれ!」
「は?」
出会いは唐突、状況は最悪。
瞳の情熱は本物で、言葉に嘘偽りは無い。
世の中の女性の何人が、こんな薄汚い血の匂いのする牢屋で求婚された経験あるのだろう。恐らく一生で一度も経験せずに天寿を全うするのが殆どではないだろうか。
しかも、自国ならまだ話は分かるが、ここは何と敵の本拠地のど真ん中である。
おまけに、人の形はしているが本来交わる事のない人外ではないか。
「え?」
「え?」
私の反応に困った様な表情を見せる。
一番困っているのは私なのだが……あまりの出来事に頭が回らない。ええっと、どうしてこうなったんだっけ?
「いやー、その、ほら、意を決しての大告白したんだぞ。もっとこう……あるだろう!!」
なるほど、何となく感触的にこちらが悪いとのことらしい。自分は勇気を振り絞ったんだ! 何かしらの反応と言葉があるんじゃないか!? と暗に訴えてる。よし、それなら現実を思い知らせてやらねばなるまい。
「はぁ、普通にお断りするけど……」
本当はもっと勢いに乗せて言ってやりたい所だが、全身の倦怠感と体力消耗のせいで言葉を発するのもやっとなのだ。ここに監禁されて何日経ったか分からないが、ろくに飲み食いもさせてもらえない状況ではこれが限界なのだ。
「な……!! な……!!」
目の前にいる闇の種族は、信じられないと言った驚愕の表情を向けてきた。恐らく今まで体験したことがないのだろう。それはこちらも同じなのだけれども。
「ま……待てぇ……待ってくれ!!」
待てと言われても、どこにも行けないぞ。両腕両足鎖で繋がれてどこへ行けというのだ。もはや体に力を入れる事さえ困難だというのに。
「俺の……俺のどこがいけないんだ!! 直すから!! 頑張って直すからさ!!」
何とも情けない声を出すのだろう。若干涙目になってるし、ていうか直すって何なのさ。
「その前に……水……飲ませて……」
とりあえず生き残りたいので、この優位な状況を利用してみることにした。もし敵国の捕虜で遊んでるなら言うことは聞かない筈だ。
「分かった!! 水だな!! それなら何か食べ物も持ってくるよ! 全く……!! 監禁なんて酷いことしやがる!」
わお、さらっと信じられない言葉を吐いて去ったが、希望の光は見えてきそうだ。まずは何とかして体力の回復に努めなければいけない。幸い魔力は微量に温存しているため、回復魔法くらいなら詠唱できそうだ。
しばらくして、食器が踊ってるかの様な音をたてながら近づいてくる影が視線に入る。先程の闇の種族だ。まさか本当に持ってくるなんて、しかもかなり豪勢な肉料理を持ってきているではないか。
「ほら、食え、そしてもう一度考え直してくれないか!」
トレイを目の前にガシャんと無造作に置かれた。何とも誘惑的な見た目に香り、口の中から涎が溢れそうだ。
「……手錠外さないと、食べられないよ」
最後の一言は一旦無視し、もう一度こちらの要求を提案してみた。
まあ流石に捕虜に対してそこまで甘くなることはないだろうが、境界線は知りたい。踏み込んで良い領域と悪い領域がある。そのロジックを上手く活用し、情報を集めるのは鉄板中の鉄板ではないだろうか。
「おう! そうだな、盲点だった。君に夢中になってて気づかなかったよ、テヘヘ」
頬を色濃ゆくさせながら目線を合わせず、最後は小声になっていた。きっと照れているのだろう、それなら最初っから言わなければ良いのに。ていうか躊躇なく手錠外したな。なんか考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
まずひたすらに、目の前の大きな容器に入った水を喉に流し込んだ。
「はぁーー……生き返る……」
普段飲むに困らない水、まさかここまで美味しくなるなんて。何か変な物でも混ぜてあるのじゃないだろうか。例えそうだったとしても手遅れなのだ。止まらない。体は潤いを求めてる。
そして骨付きの肉にかぶりついた。側から見ればまさに獣。
(これ、ただ焼いただけじゃない。きちんと香草を使って臭みを消し、尚且つ赤酒に付けてあったのか、肉汁も豊かな風味を醸し出してる。極め付けはこの絶妙な塩加減……。只者じゃないね)
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