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自分の食事に一層視線を集める闇の種族。何と嬉しそうな表情をしているのだろう。しゃがみながら両手を顎に乗せてニコニコしているのだ。まるで乙女が綺麗な花を愛でているかの如く。
「美味しいか?」
「水、もっと頂戴」
「了解だ!! すぐ取ってくる!!」
有無を言わさず走り出してしまった。これは思ったよりも本気の展開かもしれない。先程の言葉は真実と言うことだ。まさかの本当に一目惚れされてしまったかもしれないぞ。
するとどうなる? 彼を利用して此処から脱出出来ないだろうか。そもそもどの程度の位置の奴なのだろう。捕虜にあんな良い食事を持って来れるのなら、それなりに高い位だろうとは予測が出来る。だがそれだけではダメだ。多数決に至ってしまえばどんなに偉いのだろうと負けてしまう。彼一人で出来ることも限度がある筈だ。それを見極めなければ。
ガシャんガシャんとさっきより大きな音を立てながら影が近づいてきた。本当に急いで来た様だ。
「お待たせ、沢山持ってきたぞ!」
両手一杯の容器をその場に置く。
感無しと言ったら怒られるだろうか、まるで拷問に使う様な大きな釜みたいなのを持ってきてしまった。逆に恐怖だ。
「あ、あ、ありがとう……」
「へへ! 当然よ!」
コップで水を掬い、もう一度喉に流し込む。やはり美味しい。
「じゃあさ、改めて言うけど……」
すくっと立ち上がり、拳を胸に当て、ひざまづきながら言葉を発した。
「一目惚れしました!! 俺と結婚してくれ!!」
「は? 嫌」
「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」
出会いは唐突、状況は最悪。
後に、この出会いは世界の全てを変え、人々の運命さえ変えてしまう事となる。
どの様な結末になるかは、
それはまだ、誰にも分からない。
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