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4. 午後
結局お昼は一人で過ごし、教室に戻った頃には、僕の惑うような気持ちはすっかり落ち着いていた。その代わり、なんだか腹立たしさがじわじわと胸の内に広がっている。裾穂さんに対するものではなく、僕の世界から裾穂さんの存在を奪おうとしている身勝手な有名私立中学と、それを許す彼女の親や先生たちに対するものだ。そもそも、僕らが公立校の小学生だったらこんな早くにお別れがくることなんてないはずなのに。彼女の類いまれな頭脳はあるべき道を進むべきだというのはわかるんだけど、どうして時間は過ぎていくんだろう! この一分一秒の間にもお別れの時は迫っている。時間を止める数式がこの世に存在したらいいのに。
なんとかして彼女のことを失わないでいたい。おんなじ学校に進学するには僕の頭が悪すぎるし、裾穂さんの連絡先を教えてもらうのも、あの様子じゃ難しそうだ。彼女は、触れないでと言っているんだ。これ以上中身のない話題しか持たないまま話しかけたりしたらどんどん嫌われてしまう。そんなのはいやだ…………。
そこで僕は思いついた。
(裾穂さんがここで終わってしまえば、それは時間が止まるのとおんなじじゃないだろうか?)
たとえば……たとえばそう、死んでしまったりとか。僕の知らない裾穂さんがこの世に生まれる前に、殺してしまうのだ。
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