第一話 少女との出会い。

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 僕の家は、街外れの山の上にある。  以前は、街の中に身を置いていたこともあったのだけれど、やはり人間の目が気になり、人間のあまりいない山へと居住を移したのだ。  ちなみに、家は賃貸ではなく一軒家。捨てられていた廃屋を、僕がリフォームした。  登山道も整備されていない山に登ろうとする人間など稀有で、僕にとっては最も適した立地である。  僕は、下駄箱で中靴と外靴を履き替えて、校舎の外へ出た。  校門の外で、高校生の男女が仲睦まじげに会話をしている。制服から察するに、女子の方は別の学校のようだ。彼氏に会いに来た、というところだろうか。  僕は、彼らを横目で見ながら校門を通り過ぎていく。  やけに近い距離で会話をしているけれど、恋人同士の距離感とはあれぐらいのものなのだろうか。  疑問には思うけれど、まあ、別に興味もないので考える必要もないことだ。  がやがやと、賑わう街中。  僕は、その中をただ歩く。  欲望の渦。渦は消えることなく、全てを巻き込んでいく。巻き込み破壊し、そしてまた渦巻く。  僕は、人間の創り上げた渦の中を、何食わぬ顔で歩き続ける。  いつまでも。いつまでも。果てのない。無限のサイクルだ。  人間たちの欲望に染まった声が、耳に飛び込んでくる。 「ああ、女欲しい。一人じゃ足らねえよ」「はあ、お金があればなあ」 「三万払うなら、最後までしていいよ」「なんで、俺が働かないといけないんだよ!」「世の中マジで腐ってるわあ~」  騒音。  まだ車などの人工物が発する音の方が、いくらかましだ。  けれど。僕は、彼ら人間の内の誰かに幸福をもたらさなければいけない。それが僕の生きる意味、存在意義なのだ。  いつか出会う誰かに、僕は幸福をもたらさなければいけない。義務であり、絶対だ。  僕に感情などなくて、心底良かったと思う。  感情なんてものは、ケサランパサランが生きる上で、無用の長物でしかないのだから。  ふと、立ち止まる。視界の中にコンビニを移しながら、思う。そういえば、サンドウィッチはコンビニに置いてあるのだろうか。  数秒の間、思案する。そして、考えたところで百聞は一見に如かずだと思い至る。  コンビニの自動ドアの近くに立ち、ドアが開くのを待った。中から冷気が流れてくる。真夏の太陽に照らされた身体にとって、この上ない癒しだ。    
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