89人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の家は、街外れの山の上にある。
以前は、街の中に身を置いていたこともあったのだけれど、やはり人間の目が気になり、人間のあまりいない山へと居住を移したのだ。
ちなみに、家は賃貸ではなく一軒家。捨てられていた廃屋を、僕がリフォームした。
登山道も整備されていない山に登ろうとする人間など稀有で、僕にとっては最も適した立地である。
僕は、下駄箱で中靴と外靴を履き替えて、校舎の外へ出た。
校門の外で、高校生の男女が仲睦まじげに会話をしている。制服から察するに、女子の方は別の学校のようだ。彼氏に会いに来た、というところだろうか。
僕は、彼らを横目で見ながら校門を通り過ぎていく。
やけに近い距離で会話をしているけれど、恋人同士の距離感とはあれぐらいのものなのだろうか。
疑問には思うけれど、まあ、別に興味もないので考える必要もないことだ。
がやがやと、賑わう街中。
僕は、その中をただ歩く。
欲望の渦。渦は消えることなく、全てを巻き込んでいく。巻き込み破壊し、そしてまた渦巻く。
僕は、人間の創り上げた渦の中を、何食わぬ顔で歩き続ける。
いつまでも。いつまでも。果てのない。無限のサイクルだ。
人間たちの欲望に染まった声が、耳に飛び込んでくる。
「ああ、女欲しい。一人じゃ足らねえよ」「はあ、お金があればなあ」
「三万払うなら、最後までしていいよ」「なんで、俺が働かないといけないんだよ!」「世の中マジで腐ってるわあ~」
騒音。
まだ車などの人工物が発する音の方が、いくらかましだ。
けれど。僕は、彼ら人間の内の誰かに幸福をもたらさなければいけない。それが僕の生きる意味、存在意義なのだ。
いつか出会う誰かに、僕は幸福をもたらさなければいけない。義務であり、絶対だ。
僕に感情などなくて、心底良かったと思う。
感情なんてものは、ケサランパサランが生きる上で、無用の長物でしかないのだから。
ふと、立ち止まる。視界の中にコンビニを移しながら、思う。そういえば、サンドウィッチはコンビニに置いてあるのだろうか。
数秒の間、思案する。そして、考えたところで百聞は一見に如かずだと思い至る。
コンビニの自動ドアの近くに立ち、ドアが開くのを待った。中から冷気が流れてくる。真夏の太陽に照らされた身体にとって、この上ない癒しだ。
最初のコメントを投稿しよう!