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僕は店内に入り、サンドウィッチの捜索を開始した。
「ねー、パパ。海に行きたい! 海! 海!」
やかましい子供の声が、店内に響き渡る。あまりにも高い声なものだから、頭が痛くなってきた。
「分かった分かった、また今度ね」
父親らしき男性が言う。弱弱しい雰囲気が漂っている。
「えー。やだあ、明日行こうよお」
「明日かあ、うーん、明日はちょっと……」
「――やだやだあ!」
「ええと……困ったなあ」
「我儘言わないの。パパはお仕事忙しいんだから」
母親らしき女性が、駄々をこねる子供の頭を優しく撫でながら言った。次第に子供はおとなしくなり、やがてお菓子の物色を始めた。
自由な存在だな。そう、思った。
見知らぬ家族の一騒動を見終えて、自分のミッションを思い出す。サンドウィッチ。僕は、即座に捜索を再開した。
けれど。いくら探しても目的の物が見当たらない。コンビニには、置いていないのだろうか。それとも、激しい取り合いの末、売り切れてしまったのだろうか。
もう、帰ろう。僕は落胆しながら、出入り口へと向かった。数秒後、僕の足は止まる。ある物体によって、止められる。
出入り口近くの冷蔵棚、そこに『サンドウィッチ』と書かれたネームプレートが置いてあったのだ。
僕としたことが、完全に見落としていた。
恥ずかしい限りだけれど、今は恥じている場合ではない。
冷蔵棚を凝視する。念願のサンドウィッチが、僕の手に……。
入らなかった。そもそも、なかった。
ネームプレートはあるのだけれど、棚には一つも置かれていないのだ。これは一体、どういうことだろうか。やはり、売り切れか。
一応、レジの奥にいた店員に聞いてみた。
どうやら、発注ミスだったようだ。それゆえに、普段ならば売り切れにならない(売れ切れに、ならない?)サンドウィッチが、こうも見事に姿を消してしまっていたようである。
僕は肩を落とし俯きがちで、とぼとぼとコンビニを後にした。
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