91人が本棚に入れています
本棚に追加
第二話 過ぎ去っていく時の中で
「何ですと!? 幽霊の正体は、可愛い女の子だったと言うのでござるか!?」
慟哭にも似た田所君の叫びが、教室内に響き渡った。
クラスメイトの視線が一瞬こちらに集まったけれど、声の主が田所君であることを視認すると、皆、いつものことだ、といった感じで視線を戻した。
「可愛いとは、言ってないよ。僕にはそういうの、よく分からないし」
「またまた。照れずともよいでござるよ。今日も、会いに行くのでござろう?」
「え? なんで?」
「欄君が、自ら自分の話をしてくれたのは初めてでござるからな。よっぽど、その女の子に出会たことが嬉しかったのでござろう?」
昨日、幽霊屋敷と呼ばれる屋敷の庭園で、幽霊のような女の子に出会った。何があったわけでもなく、ただ出会い、そして別れた。
話しかけてくる彼女に対して反応を見せることもなく、ましてや自己紹介などするわけもなく、すぐさまその場を後にしたのだ。
といった出来事を、田所君に話した。
当然、僕が人間でないということは伏せながら話をしたわけだけれど、しかしながら、どうして話してしまったのだろう。
人間とは極力関わらないように避けて行動していたはずなのに、これではまるで、自分から歩み寄っているようではないか。
嬉しい? 何がだ?
確かに、彼女と出会った途端電流のような衝撃が身体中に走った。彼女が、幸福をもたらすべき相手、ということだ。
けれど、それに関して特別な思いがあるわけでもない。やっときたか。その程度だ。
あとは、待つだけ。時が来れば、自然と彼女の望みを叶えることになる。そういうものなのだ。
だから、わざわざ彼女の側にいなくても構わないのである。
「面倒だから、田所君の好きなように取ってもらって構わないけれど、また会いに行くなんてことは、ありえないよ」
僕は、作り笑顔でそう言った。
田所君は「もったいない」と言っていたけれど、何がもったいないのか、僕にはさっぱり分からなかった。
人間と関わることが、もったいないとでも?
だとしたら、やっぱり田所君は変わっている。
人間と関わる以上に、鬱陶しく、面倒くさいことなど、ないだろうに。
最初のコメントを投稿しよう!