第二話 過ぎ去っていく時の中で

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 初めてかもしれない。  これまで三度、人間の望みを叶え、幸福をもたらした僕だけれど、ここまで面倒臭い相手は初めてかもしれない。  人間は欲望の塊だ。  心の奥底に、何かしらの欲を秘めている。それを叶えてやると言っているのに、何故彼女はそれを隠すのだろうか。自らの欲を言葉に乗せて吐き出すだけで、それが満たされるというのに。 「そうか、やっぱり信じられないよな」 「そんなことないよ、欄君がケサランパサランだって、ちゃんと信じてるよ」 「――なら、さっさと望みを言ってくれ」  僕は、語気強く言った。あまりにも無駄な時間が流れていく。 「うーん、そう言われてもなぁ、別にないんだよね」  ? ない? 欲望の塊である人間だというのに、望みがない?  「そんなことはないだろ! 君は人間だろ? だったらあるはずだ。金か、それとも男か? 何だったら君を王族にしてやることもできるぞ」  サイクルが乱れる。  望みがなければ、僕はどうすればよいのだ。幸福をもたらすこともできず、ただ無駄に生きる。僕の役割を果たすこともなく、生きる意味がなくなってしまう。  生きる意味がない存在など、無用すぎるにも程がある。このままでは僕の存在意義が、消え去ってしまうではないか。    そういえば、昨日彼女に出会った時、彼女は死がどうとか言っていなかっただろうか。  確か、『死に近い人』、だったか。 「もしかして君、病気なのか?」 「おお、すごい! そうだよ、よく分かったね。お医者さんでもよく分からない病気なんだって」    まるで人事のような口振りだった。けれど、彼女に幸福をもたらす為の望みは、その不治の病を治すことなのだろう。  人間に限らず、命ある者にとって自らの命を蝕む存在は忌避してやまないものだ。きっと彼女は、自分が病気である事を知られたくなくて望みを言う事ができなかったのだろう。  人間にはそういった一面が見られる事も、ままあるものなのだ。 「だったら、僕がその病気を治してやる。さあ、僕に望んでくれ」    これで、四回目の生が終わる。  僕はまた、どこかで新しく生を始め、役割を果たすために生きていく。それが、僕という存在。    だというのに、結果はまたしても同じく彼女は望みを言おうとはしなかった。  といよりも、口振りから察するに、どうやら病気を治すことが一番の望みではないようだった。 「望んでくれって言われても、望んでないしなあ」
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