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僕は、彼女に幸福をもたらす。それが、僕の役目であり、生きる意味だから。
彼女は、僕に幸福を与える。それは、彼女の役目でもなく、生きる意味でもない。
それでも。
彼女は僕に幸福を与え続ける。
終わりはない。
僕と彼女が互いに幸福を与え続けるこの関係に、終わりはない。命の灯が消え去ろうと――終わることはない。
何故なら、彼女が望んだから。僕に――望んだから。
人間の望みを叶えることだけが、生きる意味だった僕に望んだから。
僕は笑う。彼女も笑う。そして、二人は声を揃えて言う。
「幸せだ」――と。
もはや絶滅してしまった幸福をもたらす生物。けれど、それは表面。内面は違っている。
ただ、いなくなったように見えているだけなのだ。きっとそう、僕のように。望まれた、僕のように。
僕は笑う。彼女も笑う。そして僕たちは。互いに見つめ合う。
一匹の雄と、一人の少女。
僕は――人間ではない。
幸福をもたらす生物。僕は、ケサランパサランと呼ばれている。
幸福をもたらすケサランパサラン。けれどまあ。今の僕はどっちかと言うと。
幸福のケサランパサラン――といった感じだ。
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