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第一話 少女との出会い。
僕は――人間ではない。
人間の姿をしているけれど、人間ではない。高等学校と呼ばれる場所に所属しているけれど、それは人間の世界の中に溶け込むためにそうしているだけであって、人間であるから、というわけではない。
人間の世界に溶け込んでいないと、命の危険性があるから、仕方なくだ。
恐らく、周囲の目から見れば僕の存在は、人間となんら変わらずに見えるだろう。しかし、僕には人間と根本から違う部分がある。
それは――生物としての存在意義である。
『幸福をもたらす生物』。それが、僕だ。
既に僕以外は絶滅してしまったであろうその生物は、古来より人間の望みを叶え、幸福をもたらしてきた。
金、女、富、名声、権力。望みは各々違ってはいたが、底にあるものはどれも我欲の塊だった。
自らの欲を満たす。それが、人間の幸福なのである。
浅ましく、醜い。
彼らが望む事柄に対して、そう思うわけではない。
人間たちが見せるその顔を、醜い、と感じるのだ。己の望みが今まさに叶う、となった時の人間の顔。あれは、あまりにも醜悪だ。思わず、目を塞いでしまいたくなる。
けれど。
僕は、そんな人間の望みを叶えてきた。
何故、人間の望みを叶え幸福をもたらさなければならないのか、それは僕にも分からない。だが、それが僕にとっての唯一の生きる意味だと、そう思っている。
『幸福をもたらす生物』
僕は、ケサランパサランと呼ばれている。今ではその存在を認知する者もいなくなってしまっているけれど、かつてはそう呼ばれていた。
ケサランパサランは、人間の望みを叶え幸福をもたらす。そして、それによって力を使い果たし、また一から新たな生を始める。
一から生を始め、再び幸福をもたらし、そしてまた一から生を始める。
無限のサイクル。
そのサイクルの中に身を置くことが僕の役割であり、生きる意味なのだ。それ以上も、それ以下もない。
人間とは、幸福をもたらすための相手。それだけだ。それ以外には、何もない。あるわけが――ない。
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