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男子の感情も女子の感情も、いまいち理解できないけれど、とりあえず僕は、田所君の言葉に納得したかのように、頷くことにした。
男子が皆、田所君に賛同しているのだ、僕もそれに倣った方が良いだろう。女子からの北風のように冷たい視線が気にはなるが、それはおいておくとして、人間の世界に溶け込むためには、多少の我慢も必要である。
もし、僕が人間ではなく『幸福をもたらす生物』だと知られれば、人間は僕を捕らえ望みを叶えさせようとするだろう。実際に、これまでの生のサイクルの中で何度も体験している。
まだケサランパサランとして生まれて間もなかった頃、僕はなんの警戒心も持たずに人間に対して自分の正体を晒していた。
対価を支払うこともなく、望みが叶う。欲の塊である人間にとってそれは、この上なく魅力的なことなのである。
僕の正体を知った人間は、ありとあらゆる方法で僕に近寄ってきた。力ずくで僕を監禁しようとする者や、それとは対極的に、初めは友好的に接しておいて、タイミングを見計らって望みを叶えることを強要してくる者、など。
皆、必死だった。
我欲を他者に満たしてもらおうと、血走った目で懇願していた。
滑稽ではある。
けれど、それらを叶えることがケサランパサランである僕の生きる意味なのだ。それ以外に、僕の存在価値はない。
たとえ僕がどんなに相手を嫌おうと、僕の意思は尊重などされず、幸福をもたらす相手は自動で決定される。まるで、予め神が決定しているかのように、だ。
幸福をもたらす相手に出会えば、すぐに分かる。
身体中に、電流が流されたような衝撃が走るのだ。全身が痺れる感覚。僕は、これまでに三度それを味わった。
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