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学校の中を歩いていると、様々な人間に出会う。
生徒、教師、役員、保護者、他にもこの学校に出入りしている関係者はいるだろう。
ここでの生活も二年目となり、それなりの数の人間を見てきた。けれど、僕が幸福をもたらす四回目の相手には、まだ出会えていない。
これまでならば大体、産まれてから十二年ほどで出会っていたのだけれど、どうやら今回は少し遅れているようだ。
不安を感じているわけではないけれど、心なしか僕自身焦っているような気がする。何気なく校内を歩いている時も、つい幸福をもたらす相手がいやしないかと、周囲を見回したりしてしまっている。
焦っても仕方のないことだ、と自分に言い聞かせ、僕は校内を散策する。目的はない。ただなんとなく、昼休みの持て余した時間を歩いて消費しているだけだ。
隣のクラスの前に到達する。
クラスの中から怒鳴り声が聞こえてきた。
恐らく声の主は、この地域一帯で有名な不良集団のうちの一人だろう。
校内の噂によれば、不良集団のリーダーには伝説があるという。なんでも、仲間が理由もなく極道関係者に殴られた聞いたリーダーは、単身でその事務所に乗り込み暴れまわったそうだ。
結果は、当然返り討ち。けれど、到底出来ることではない。
いや、褒めているのではない。愚か過ぎて出来ることではない、とそう言っているのだ。
だがまあ、極道にも怯まない不良を、よくもこんな進学校に所属させ続けていられるものだ。問題を起こせばすぐに、退学処分にしてしまいそうなものだが。賄賂でも渡しているのだろうか。
立ち止まって色々と考えていると、今度は悲鳴が聞こえてきた。聞いたことのある声だ。思い出した。数学教師の声だ。
なるほど、と得心がいった。
学校側も彼を恐れているのである。だから、問題を起こしてもむやみに退学処分を言い渡せないということか。暴力は規律を無視して振るわれるものゆえに、恐怖心が拭い切れないのだ。
情けないような気もするけれど、自分たちの保身が第一という考え方は、共感出来る。それでこそ、生きとし生けるもの、と言えよう。
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