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プロローグ
僕は、今でも思い出す。
あの夏の日。彼女と出会った時のことを。偶然だったのか、それとも必然だったのか。それは今でも分からないけれど、僕たちは出会ったのだ。
一人の男と一人の女――としてではなく、二つの命として。
もしも、あの出会いがなかったとしたら、僕はこうして笑って生きてはいなかっただろう。きっと、変わらない無限のサイクルの中に未だ身を置いて、無機質のように存在していたに違いない。
彼女は、僕に幸福を与えてくれた。
本来ならそれは、僕の役目であり、生きる意味でもあったのだけれど、彼女は人間でありながら、僕よりもそれを上手にやってのけた。それも、この僕に対してである。
まったくもって、情けない話だ。
――けれど、これでよかった。
僕は――笑う。
彼女も――笑う。
そして、彼女は言う。「幸せだ」と。
そして、僕も言う。「幸せだ」と。
何が幸せで何が不幸なのか。そんなことは到底分かるはずもなく、きっと答えなんてないのだろう。答えのない答えを探して、いつまでもいつまでも巡り巡る。
そうして、いつか辿り着く。答えのない答えのその先に、あたかも最初から書き記されていたのかのように――いつか出会う。
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