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「やあ久しぶり」
弟と同じ制服で微笑む氷室が立っていた。耳にはスマホを当てている。
まさかと思ってスマホを確認すると「氷室悠」から大量の不在着信が来ていた。怖くなってスマホを落とす。
「大丈夫?」
氷室が拾ってくれるが俺はすぐには受け取れない。
「どうして、俺のスマホにお前が登録されているんだ…」
「合宿の時にちょっとね。それより会えてよかった。蒼井くんが部活終わるまで待とうと思ったんだけど、早かったね」
「ちょっと体調が悪くて…だからもう家に帰ろうと」
俺がそういうと氷室は不安そうに眉を下げた。
「そっか、それは引き留めちゃ悪いね。僕はただこれを渡したかっただけなんだ」
氷室はポケットから小さなケースを出した。
「あ、それ!」
「そう。君のワイヤレスイヤホン。合宿の時部屋に忘れてたよね。僕は最後の忘れ物チェックをする係だったから見つけたんだ」
「もう諦めてたんだよ!それ1万円以上するから結構ショックでさ」
「そうだと思った。前の大会で返そうと思ったけど機会を逃しちゃったから、今返しに来たんだ」
そっか、そうだよな…。
そのために俺のことを聞き出してたんだよな。緊張が解けて一気に安心した。
むしろ、ここまで届けてくれるなんてめっちゃいいやつじゃん。
「ごめん、俺お前のこと疑ってた…」
「え?」
「怪しくて、ちょっとやばい奴かな、なんて思ってて。ごめん本当に…」
そういうと氷室は優しく笑った。
「いいんだ。見ず知らずのやつから追いかけられたらそりゃ疑うよな。でも届けられてよかった」
「ありがとう。この際だからこれから一緒に走ったりしような」
「…うん」
すると氷室はねっとり笑った。
あれ?この氷室からの不快な視線、この前も感じた。
だがもう一度見た時には元の爽やかな笑みに戻っていた。まあいいや。
軽く手を振って氷室に背を向ける頃には視線のことはすっかり忘れていたのだった。
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