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「本当はずっと前から下の名前で呼びたかったけどさ、颯人はどことなく俺に一線引いてたでしょ?」
…確かにそうだった。
自分より実力があるとか、対等でいたいとか、ライバルだとか、それでいて告白されたとか、色んな感情や事情が絡まって近づけなかった。
「だから俺から言い出したらもっと離れるかと思って黙ってたんだけど…。まさか颯人の方から言ってくれるとは思わなかったよ」
「…これからはいくらでも呼んでいいから」
恥ずかしくなって、こんな可愛くない言い方になってしまった。でも悠は気分を害した様子はなく、ご機嫌そうだった。
「もちろん呼ばせてもらうよ、これからずっと。ところでさ、このあと空いてる?」
「あー、17時くらいまで少し用事があるけどその後なら」
「いいよそれで。ここから3駅隣に颯人と行きたいところがあるんだ。帰る時間が遅くなっちゃうと思うけど大丈夫?」
「別に平気。うちに親はいないし、雅樹には連絡しとく」
雅樹の名前を出すと悠は少し苦々しげな表情を浮かべた。
「もしかして、あの夜雅樹が駅まで送った時になんかあった?」
俺が尋ねると悠は首を振った。
「いや、なんでもないよ。ただ、随分かっこいい弟さんを持っているんだね」
「だろ、自慢の弟だ」
「はは…手強いな」
悠は力なく笑う。
よく分からないが俺たちはとりあえずその場で別れ、5時過ぎに最寄駅で落ち合う約束をした。
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