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そのあと野暮用を片付け、最寄駅に行く。
朝は選手で溢れかえっていたのに、駅はすっかり閑散としていた。元々都心部からは外れた田舎の駅である。今日の朝が特別だっただけで、普段はこんな様子なのだろう。
駅の入り口にあるベンチに、悠が腰をかけているのを見つけた。
「おーい、悠。遅くなってごめん!」
俺が呼びかけると悠がこちらを向く。そのまま俺に手を振ってニコっと笑った。
「いいんだよ、元々俺が我がまま言って付き合わせたんだし。じゃあ行こっか」
悠が俺を改札の方へと促す。
程なくして電車が来て、ガラガラの座席に俺たちは隣り合って座った。
「ところでこれからどこに行くんだ?」
俺が尋ねると悠は悪戯っ子のように目を細める。
「内緒。着いてからのお楽しみだよ」
それ以上は何も言わなかった。
はっきり言って俺は今かなり疲れている。
朝早く起きて大会に行き、全速力で走って、おまけに野暮用まで済ました。疲れるのも当然である。
どこに行くのかは知らないが、疲れるようなことは勘弁してほしい。
実際に俺は気がつくとコクコクと船を漕いでいた。
しばらく心地よく微睡んでいると、急に頭を優しく叩かれた。
目を開けると、俺は何かにもたれかかっていることに気づく。
え、まさか…。
バッ、と身体を起こすと氷室がニコニコ笑っていた。
俺は氷室の肩に頭を乗せてしまったようだ。顔が熱くなるのがわかる。
「ごっ、ごめん!重かったか?」
「ううん、全然いいんだよ。颯人の寝顔かわいかったし。もう少し見ていたかったけど、着いたみたいだ」
そう言われて窓の外を見ると、確かに目的の駅に着いていた。
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