最後の大会

14/23
前へ
/188ページ
次へ
そのあと野暮用を片付け、最寄駅に行く。 朝は選手で溢れかえっていたのに、駅はすっかり閑散としていた。元々都心部からは外れた田舎の駅である。今日の朝が特別だっただけで、普段はこんな様子なのだろう。 駅の入り口にあるベンチに、悠が腰をかけているのを見つけた。 「おーい、悠。遅くなってごめん!」 俺が呼びかけると悠がこちらを向く。そのまま俺に手を振ってニコっと笑った。 「いいんだよ、元々俺が我がまま言って付き合わせたんだし。じゃあ行こっか」 悠が俺を改札の方へと促す。 程なくして電車が来て、ガラガラの座席に俺たちは隣り合って座った。 「ところでこれからどこに行くんだ?」 俺が尋ねると悠は悪戯っ子のように目を細める。 「内緒。着いてからのお楽しみだよ」 それ以上は何も言わなかった。 はっきり言って俺は今かなり疲れている。 朝早く起きて大会に行き、全速力で走って、おまけに野暮用まで済ました。疲れるのも当然である。 どこに行くのかは知らないが、疲れるようなことは勘弁してほしい。 実際に俺は気がつくとコクコクと船を漕いでいた。 しばらく心地よく微睡んでいると、急に頭を優しく叩かれた。 目を開けると、俺は何かにもたれかかっていることに気づく。 え、まさか…。 バッ、と身体を起こすと氷室がニコニコ笑っていた。 俺は氷室の肩に頭を乗せてしまったようだ。顔が熱くなるのがわかる。 「ごっ、ごめん!重かったか?」 「ううん、全然いいんだよ。颯人の寝顔かわいかったし。もう少し見ていたかったけど、着いたみたいだ」 そう言われて窓の外を見ると、確かに目的の駅に着いていた。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2398人が本棚に入れています
本棚に追加