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悠が目線を上げるように促した。
ゆっくりと目線を上げ辺りを見渡すと、目の前には都心の夜景が広がっていた。
「…綺麗」
俺がポツリと呟くと悠がコクリと頷いた。
「本当に綺麗だよね。都心から少し離れただけの高台だから、夜景を一望できるんだ」
湯煙で夜景の光が揺らめき、より幻想的な輝きを放っている。
真っ暗な闇に黄金の夜景が映え、まるで宝石箱のようだった。
「今回の大会の会場には、もちろん来たことがあったけど…こんなところがあるなんて知らなかった」
「そうだと思った。颯人はいつも一生懸命だから、たまにはこうやって一休みするのもいいかと思って」
「それに今日は…節目だしな」
俺が言うと悠は真剣な顔で俺を見つめた。
「まさか、陸上は高校で辞めるなんて言わないよね?」
その目はしっかり俺を見つめていたが、微かに震えていた。俺がいなくなることを恐れているように見えた。
「…馬鹿、大学でも続けるよ。W大から推薦をもらった」
「えっ、俺も」
悠が心底驚いたような顔をする。だがそれは俺も同じだった。
「え、悠もW大?」
「そうだよ…!」
「じゃあ俺たちこれからも…」
「一緒に走れるってこと!」
その事実が心底嬉しくて、涙が滲んできた。湯煙できっと誤魔化せたはずだ。
俺と悠は嬉しくて笑い合った。
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