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俺を真っ直ぐ見つめる悠の瞳には、夜景の光がキラキラと映り込んでいた。
顔がどうしようもなく熱い。
これは温泉のせいなのか、それとも別の何かなのか。
「…うん」
俺の喉からはこんなか細い声しか漏れなかったが、悠にはしっかり聴こえたようだ。
「颯人、好きだ。初めて会った時よりもずっと、颯人のことが好きだ」
そう言って悠は俺を抱きしめた。
そのまま悠の唇が俺の耳に添えられる。
「愛してる」
僅かな振動を伴ってその言葉が俺の耳に流れ込んだ途端、俺の身体中をゾクっとした感覚が駆け巡った。
心臓の鼓動が速い。こんなに密着していたら、絶対悠にも聴こえてしまっている。
だがそれと同様に、悠の胸が触れる部分から心臓の鼓動を感じ取れた。
悠に抱きしめられているだけで、何故か安心する。
ああ、ここだったんだと、何故かしっくりくる。
人に抱きしめられることがこんなにも心地いいのだと、初めて知った。
この感情を悠にも返したくて、俺はおずおずと悠の広い背中に腕を回す。
悠は一瞬ビクっとしたが、すぐに俺を抱きしめる腕の力を少し強くした。
俺を抱きしめたまま、悠は頭を上げて額同士をくっつける。
唇が今にでも触れてしまいそうな距離だった。
しばらくお互いを見つめ合う。
少し垂れ気味な目元も、スッと通った鼻筋も、しっとりと濡れたサラサラの髪も、全てが美しく見えた。
男に美しいなんて変だし、普段の俺なら絶対に言わないけどそう思ってしまった。
湯煙が俺たちの、ほんの僅かな隙間を通り抜ける。
少し開いた悠の唇から熱い吐息が漏れる。
その吐息を飲み込むように
俺たちは自然にキスをしていた。
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