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不意に悠が俺の頰を両手で包み込み、上を向かせる。互いの目がパチリと合った。
「あと…告白の返事は、まだいいから」
「え…」
「颯人だって男に告白されて戸惑ってると思う。俺も男を好きになったのは初めてだから、最初はこれが本当に恋心なのかどうか戸惑ったよ」
「わかったの…?」
「うん、今なら颯人のことが好きだってはっきり分かる。時間があったから。でも颯人は…急だったでしょ?」
俺の返事を聞きたいはずなのに。それでも待つと言う。
甘い。やっぱりこいつは甘すぎる。
「気持ちがまとまったら、颯人の口から聞かせて。俺、待ってるから」
誰かにここまで真剣に想われたことなんて、今まであっただろうか。
逆に俺はここまで真剣に人を愛したことがあっただろうか。
きっと、両方まだない。
「そろそろ上がろっか」
悠に促されて温泉を出て脱衣所に行き、着替える。
軽く髪を整える為に鏡の前に立つと、真っ赤な顔をした自分がいた。こんな顔を悠にも見られていたのだろうか。
感情を隠すのは得意な方だと余っていたのに。
俺の顔は面白いくらい正直だった。
でもいまなら、温泉のせいだって誤魔化せる。
そうだ、全部温泉のせいだ。
そう思おうとして顔をパタパタ仰いでも赤みは引かない。
気持ちがまとまるのは、そう遠くない気がした。
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