自覚

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自覚

最後の大会を終え、俺は間も無く卒業を迎えた。 卒業式が終わった後の教室では、多くのクラスメイトが写真を取り合ったり、アルバムにメッセージを書いたりしている。 俺はみんなが受験で忙しい中、早めに推薦を決めて陸上に明け暮れていた。わずかに引け目を感じていたが、周りはそんな俺を気にした様子がない。むしろ気さくにたくさん声をかけてくれた。 「おい蒼井!陸部の打ち上げがあるから来いよ!」 「おう今行く!」 部員に呼ばれて廊下に出る直前、後ろから肩を叩かれる。 振り返ると委員会で一緒になったクラスメイトの女子が立っていた。 「あ、あのさ蒼井くん。ちょっといいかな…?」 「…うん」 ああこのかんじ、もしかして。体育館裏までついて行くと、真っ赤な顔に見つめられた。 「あのっ、委員会で一緒になった時から好きでした。付き合ってください…!」 春風に揺られる髪も、華奢で小柄な体格もとても可愛らしく見える。 普段の俺ならとても舞い上がっていた筈だ。 けど、今の俺の心は少しも揺さぶられなかった。 きっとそれは脳裏にあいつの顔がチラつくからだ。 「…ごめん、君のことそういう風に見たことがなくて…」 俺がそう言うとその子は悲しそうに笑った。 「…そうだと思った。ごめんね、困らせて」 「いや、こちらこそ本当にごめん」 「…いるの、好きな人?」 その子に聞かれて、少し考えてから彼女を真っ直ぐ見つめる。 「…いるの、かもしれない」 「そっか…その人が羨ましいな」 それから少しして彼女は去っていった。 こんな優柔不断な俺に想われる人は、かわいそうだと思った。
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