自覚

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「でも蒼井先輩が女子と付き合ってるのって想像できないですよね」 「わかる」 なんだと。 ムッとして話してる奴らの方を向いた。 「なんつーの?ほら…百合っぽい」 「百合?」 「女の子同士ってやつだよ」 「俺はれっきとした男なんですけど…」 「こんな綺麗な顔してても中身は男前なんだからギャップがいいよな。可愛いよ、蒼井ちゃん」 そう言って俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。されるがままになっていると、俺の周りにはたくさんの部員が集まっていた。 いつもより羽目を外した、ふざけた空気をみんなで楽しんでいる。 今日が最後の日だなんて、意識したくないからだ。しんみりした空気にしたくないからだ。 だから俺はその空気を壊さないように文句を言わなかった。 高校生としてこうやって部室で騒ぐのも、今日が最後だなんて思いたくなかった。 部室の至る所に、思い出がこびりついている。 それら一つ一つをなぞるように思い出していくとキリがなかった。 窓の外には満開の桜が花を散らしている。 厳冬を超えて、ようやく暖かい風が吹き始めている。 こんなにめでたい空気なのに、春はどうして物悲しいのだろうか。 俺はふと、少し遠くにいるあいつに想いを馳せた。 そういえばあいつも今日が卒業式だって言ってなかったっけ。 あいつもこんな気持ちを味わっているのかな。 少し気になってラインを開く。 もちろん何の通知も無かった。あいつもあいつで陸部の打ち上げを楽しんでいるのだろう。 その楽しみに水をさすのは申し訳ないと思ったが、無性に悠に会いたくなってきた。 迷いに迷った末、 「部活の打ち上げとか、いろいろ済んだ後でいいから今日どっかで会える?」 と送った。
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