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「その節は…本当にご迷惑をおかけしました。遊佐先輩は関係ないのに個人的なことに巻き込んでしまって」
「いいんだ、俺がお節介だったのもあるから」
「それであの、氷室のことなんですけど…」
「うん」
遊佐先輩は穏やかな表情で俺を見つめている。きっと俺が何を話したいのかも、賢いこの人なら分かってるのだろう。
俺は氷室との関係を打ち明けた。好きと言われたこと、それに戸惑って避けてしまったこと、氷室が逆上したこと、今は落ち着いてること…。
遊佐先輩はたまに相槌を打ちながら、黙って聴いてくれた。その雰囲気にも押されて、話してるうちに様々な想いが込みあがり目頭が熱くなる。恥ずかしくなって、俺は体育座りをしたまま下を向いて顔を隠した。
いつか木陰の下で俺の涙を受け止めてくれたみたいに、遊佐先輩は俺の背中を優しく撫でた。
「うん…それで、蒼井は氷室の想いをどうしたいと思ってる?」
「…分からないんです。どこか惹かれてる部分は間違い無くあるんですけど、『同性愛』という言葉がいつも躊躇わせるんです」
「氷室が男だから、ダメってこと?」
「異性同士が愛し合って、生きていくのが普通じゃないですか。俺もそう思ってたし、同性愛に偏見はないと思ってたけど、いざ自分が白い目で見られると思うと怖くてたまらないです」
「じゃあ蒼井か氷室のどちらかが女だったら解決した?」
「わからないです…だって俺たちは紛れもなく男で、同性だから」
消え入りそうな声でポツリと漏らすと、遊佐先輩は静かに「そっか」と言った。
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