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「自分と同じ男だとか、そんな性別の話は抜きにして考えてみなよ」
遊佐先輩に言葉に俺は顔をあげる。
「…え?」
「氷室を1人の『人間』として見たとき、蒼井は氷室のことをどう思ってる?」
「……」
「氷室も蒼井も男である前に『人間』なんだ。そしたら性別なんて関係なくないか?」
…人間。
全ての先入観を取り払って氷室を見つめたことがあっただろうか。自分の気持ちばかり優先して、悠そのものという「人格」を無視していなかっただろうか。
悠はあんなに真っ直ぐ「蒼井颯人」という人間にぶつかってくれたのに、俺はいつも先入観というフィルター越しにあいつを見てた。
自分の気持ちと向き合う前に、「氷室悠」という人間をもっと知るべきなのではないか。
…もっとあいつのことを知りたい。
やっぱ今日にでも、今すぐにでも会いたい。
俺の表情をみて遊佐先輩はニコリと笑った。
「答えは出たみたいだな。きっとそれは間違いじゃないよ」
「ありがとうございます。やっぱ、遊佐先輩ってすごいですね」
「蒼井よりほんの少しだけ長く生きて、ほんの少しだけ複雑な人生を歩いてきたからね。でも俺だって欠点だらけだよ」
「欠点なんて、どこにも見当たりませんよ」
「こういうところだ。本当は欲しくて欲しくてたまらないものを、安っぽい良心の呵責で自ら手放してしまうところとかね」
「…?」
「いや、まだ手放したとは決まってないか。でも敵な塩を送るようなことをしちゃったな」
よく分からないな、と思っていると「こっちの話だ」と言って遊佐先輩は誤魔化すようにまた笑った。
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