自覚

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「まあさ、今この瞬間は俺に蒼井を独占させて?可愛い可愛い後輩の卒業を祝福したいんだ」 そう言うと遊佐先輩は立ち上がってテーブルに行き、ケーキを一つ持って俺の隣にまた座った。 それはしっとりと美味しそうなチーズケーキで、俺が気になっていたケーキだった。 「蒼井ってチーズケーキ好きだっただろ?ほら」 そのまま遊佐先輩はフォークに一口分のチーズケーキを取り、俺の口に差し出した。 まさかこれは…。 「食べないのか?あーん」 あ、あーん…って。 この歳になって「あーん」をされる日が来るとは。 しかも遊佐先輩みたいな爽やかで大人っぽいイケメンにされると無性にドキドキする。 戸惑って口を開かない俺の顔を、遊佐先輩が覗き込む。そして俺の目を見つめてニコッと笑った。 「気分が落ち込んでいる時は甘いものがいいんだぞ。ほら、たべな?」 くっ、眩しい…。 やっぱ遊佐先輩に言われると勝てない。 俺は目をつぶっておずおずと口を開いた。 だが待ってもケーキは一向に入ってこない。不思議に思って目を開けると、赤い顔をした遊佐先輩が俺の顔を見て固まっていた。 「…どうかしましたか?」 「…あの、想像以上になんというか。その顔に唆られ…いや、なんでもない。ほら、口開けて」 もう一度口を開けると、今度は優しくケーキが入ってきた。 「…おいしい?」 遊佐先輩が少し小さな声で俺に尋ねる。 「っはい!甘くてすごく美味しいです!」 「それはよかった」 だが遊佐先輩はモジモジした様子で相変わらずおかしい。しまいには「ちょっと頭を冷やす」といって外に出て行ってしまった。
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