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遊佐先輩、様子がおかしかったな。なんて思いながら残りのチーズケーキを食べる。高いケーキだけあって少し味も違う気がした。
するとポケットに入れたスマホが鳴る。もしかして、と思って見てみると悠からの返信だった。
「俺も颯人に会いたいと思ってた。話したいこともあるから6時に会おう」
よかった、会える。
それだけで胸が高鳴るのがわかる。悠と真摯に向き合う覚悟ができたからかもしれない。遊佐先輩にはやはり感謝しなければ。
嬉しくてチーズケーキをパクパクたべていると、遊佐先輩が戻ってきた。
「大丈夫ですか、どうかしました?」
「いや、なんでもない。ちょっとどうかしてただけだ」
「そういえば、氷室に今日会えることになったんです。これを機会に氷室と真剣に向き合おうと思います」
「うん…そっか。あのさ、」
遊佐先輩が何かを言いかける。
「なんですか?」
続きを促すと遊佐先輩は顔を赤くして俺の顔を覗き込んだ。
「氷室だけじゃなくてさ…、俺とも真剣に向き合ってみないか?」
「え?」
「だめ、か?」
「俺は遊佐先輩のことをとても尊敬していますし、大好きです。いつも遊佐先輩とは真剣に向き合っていますよ」
心からの思いを伝えた。やはり遊佐先輩は俺にとって一番の先輩だから。
だが俺のその返事を聞いて遊佐先輩は少し哀しそうな顔をする。
「…そうだよな。俺も、いつも蒼井のことを想ってるよ」
「俺もです!」
元気に返事をすると、遊佐先輩は俺のことを急にギュッと抱きしめた。
そのまま俺の耳元に唇を寄せて、そっと囁く。
「卒業、おめでとう」
爽やかな先輩らしからぬ、やけに色っぽい声色にゾクッとする。驚いて先輩の顔を見つめると、遊佐先輩はいじわるそうに笑った。
「俺だって蒼井の先輩である前に1人の男で、1人の人間なんだよ。少しは、意識しろよな」
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