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静かなシーンになると氷室の手は止まった。そして俺の顔を覗き込む。
「…どうかした、颯人?」
「…っ、なんでも、ない…」
「そっか」
こいつ…!
明らかに確信犯だろ!「そっか」って言った後、意地悪そうに笑ってたのをちゃんと見てたからな!
もう無理だ、この腕から抜け出そう。
そう思ってもがいたが、悠のホールドが一層強くなった。痛くはないが、しっかり腕を固めているためビクともしない。
「っおい、はなせ…」
「ほら、主人公が危ないよ。この後どうなるんだろうね」
「ひっ…」
俺に囁いた後、悠は俺の耳に息をフッと吹きかけた。耳が非常に弱いことを分かってやってる。
映画なんてとても集中できたもんじゃない。悠は楽しそうに見ているが、別の意味の楽しさも混ざっていると思う。
そのあとも悠のセクハラは続き、俺は始終悠の腕の中でビクビク跳ねていた。
息絶え絶えになるころには、エンドロールが流れていた。
「あー、想像と違って意外な展開だったな。結構面白かった。颯人は?」
「…っ、しらねぇよ…!」
「ごめんごめん、チーズケーキ買っといたから許して?」
そう言うと悠はフォークにチーズケーキを盛って、俺の口に突っ込んできた。
「んぅ〜!」
「ほらほら、美味しいね?」
「んん…」
無理矢理食べさせられて、俺の不満は押し込まれた。だが咀嚼するたびにチーズケーキの甘味が広がる。
「おいしい…」
「そう?よかった」
こうしていつも悠に丸め込まれてしまう。
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