自覚

19/47
前へ
/188ページ
次へ
外を見ると既に夕方だった。色んな意味で疲れたし、そろそろ帰ろう。 今度こそ強制的に悠の膝から立ち上がる。今回は悠もすんなりと離してくれた。そして俺は悠の方を向いて口を開いた。 「今日も楽しかった。ありがとう」 「うん、こちらこそ。次はいつにする?」 「どうせ暇だから、いつでも。悠は?」 「俺も暇だよ。じゃあ明後日は?」 「わかった。じゃあそろそろ帰るわ」 そう言ってペコリとお辞儀すると悠はクスクスと笑った。 「颯人は変なところで礼儀正しいよね。あー、いつものことだけど颯人が帰っちゃうの寂しいなあ」 話しているうちに玄関に着く。俺は屈んで靴を履いた。 「俺も名残惜しいよ」 「…ほんと?」 悠も俺の隣にしゃがみ込み、俺の顔を覗き込んだ。顔が近い。 「ほ、ほんとだよ。ほら、お前の家プライムも見れるし、ゲームも漫画もあるしさ」 「モノが目当て?ほんとにそれだけ?」 うー、あー、めんどくさい! でも悠が言ってることも本当だ。誤魔化せなくて、俺は意を決して呟いた。 「…あと、お前」 そう言うと、悠はわかりやすくニコっと笑う。 「…俺もだよ!俺も颯人といることが大好き」 「……」 照れて黙っていると、悠の顔がさらに近づいた。 チュッ 頰に柔らかい感触が降りる。まさかと思って悠の顔を見ると、悪戯っ子のように笑っていた。 「もう帰りな。今日は楽しかったよ」 俺はキスされたところを手で押さえ、真っ赤になる。 こいつは、いちいちやることがキザなんだよ! 「…っ、じゃあな!」 転がるようにして悠のマンションを出て行った。 背後で悠が嬉しそうに微笑んでいると知らず。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2399人が本棚に入れています
本棚に追加