自覚

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蹲って顔を埋める。周りの景色と俺が遮断された。 そばを何人かが通り過ぎる気配がしたが、誰も声をかけなかった。 それもそうだろう。こんな不審者、逆の立場だったら俺も絶対声をかけない。 目立ってることは百も承知だった。 だが呼吸が苦しくなるくらい辛かった。ただただ哀しかった。 不審でもなんでもいい、しばらく一人になりたい。 「おい」 すぐ後ろで誰かが誰かを呼んでいる。 「大丈夫か?」 俺以外…周りにいないはずなのに。 不思議に思って顔を上げると、真後ろに気配を感じた。 「蒼井…だろ?」 ハッとして後ろを振り返る。 「俺のこと覚えてるか?」 「…有賀、会長?」 そこには懐かしい人物がいた。 海明高校の元生徒会長、有賀亮だ。相変わらず背が高く、野性味のある男らしい顔立ちをしていた。 「海明高校で会って以来だな。久しぶり」 そう言ってニッと俺に笑いかける。 「ひ、久しぶり」 「ところでこんなところで蹲って、どうしたんだよ。体調でも悪いのか?」 「体調は、大丈夫なんだけど。…ちょっと色々あってさ」 「…氷室のことか?」 「えっ」 真剣な目で有賀が俺を見つめている。なんで分かったんだ。 「なんでって、顔してるな。まぁ察しはつくんだよ」 「ど…して」 「…あいつのこと側でずっと見てたからな。それに、あれってあいつのマンションだろ?」 「……」 「あー、ここにいてもラチがあかねぇよな。ちょっと俺と話しよう。来い」 そう言って有賀は俺の腕を引っ張った。 「おい、どこに行くんだよ」 「まーまーいいから」
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