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「あいつはなんでも器用にこなすし、優秀なやつなんだよ。蒼井も知ってるだろ?」
道中に有賀がおもむろに話し出す。行き先はまだ告げないまま。
「でもな、それゆえに自我がないやつでもあった。どこか冷めたような目をしてさ」
俺は今、何を聞かされているんだろう。
「でもそんな陸上以外何事にも興味を示さないような奴が、ある時期を境に変わったんだよ」
「……」
「どっかいつもフラフラしてるあいつを見てるのは不安だった。だから、嬉しそうに目を輝かせるあいつを見て俺は心底安心したんだ」
そう言って俺の方を振り向いて笑う。
「と言っても、蒼井には何言ってるか分んねぇよな。詳しくは中で話そう」
そして有賀は目の前の見知らぬマンションを指さした。
「ここは…?」
「俺のマンション。俺も引っ越して一人暮らししてんだ。外じゃ話せないような話だからな。来い」
「えっ、あ」
有賀はズンズン中へと歩いていく。俺はついていくしかなかった。だが流石にちょっと警戒する。そんな俺の様子を見て、有賀は困ったように笑った。
「そんなに怯えなくたって、別に取って食ったりしねぇよ。それに俺には別に好きな奴がいる」
「すまない、悪気はなかったんだけど無意識で…」
「まー、拗れてるよなお前ら。ナヨナヨしてる氷室を見るのは懲り懲りだ」
そのまま有賀は部屋のドアを開けた。きれいに片付いてる部屋が目に入る。
「まあ入ってくれ」
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