自覚

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「お邪魔します…」 「おう、そこに座れ」 指差されたソファーに座る。黒いシンプルなソファーだった。まもなくして有賀はコーヒーを二つ持ってくる。 「コーヒー大丈夫だったか?ミルクか砂糖いる?」 「じゃあミルクを」 ありがとう、といってコーヒーを一口啜る。 「まあそれで本題なんだが」 「……」 「さっきも言ったように、俺は氷室のことを近くで見てきた」 「うん」 「あいつは来るもの拒まず去るもの追わずのスタンスだったんだ。求められれば誰にでも応えた。だがみんな氷室の無関心さに嫌気がさして、振られるのはいつも氷室の方だったよ」 まあ、悠はイケメンだしな。そのぐらいのことは想像してた。 「でもな、ある日氷室の様子が明らかにおかしかった。いつもより生き生きとしてるというか…とにかく目が輝いていた。いつからだと思う?」 「わからない」 「そうだよな。強化指定選手の合宿が終わった日からだよ。『速くて、努力家で、凄い面白い選手がいた』って嬉しそうに話してたよ」 「それって…」 「お前のことだ、蒼井。あの時は単なる興味だったのかもしれないが、氷室の感情がどんどん深く、激しくなっているのは傍目から見ても明らかだった」 そう言って有賀は俺をじっと見つめる。 「氷室はお前のことが好きなんだろ、そういう意味で。そのくらい分かるさ」 指摘された瞬間、顔が熱くなるのが分かった。そんなにバレバレだったのか。 「少し前に告白されて…それで」 「じゃあお前はなんであんな所で蹲ってたんだ?」
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