自覚

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悠の家は相変わらず豪勢だった。金持ちの家だ。 中に入っても数人のお手伝いさんがいるだけで、家人の気配は無い。 やけに静かな家を歩き、見覚えのある部屋の前に来た。もちろん悠の部屋である。 「どうぞ、入って」 「おじゃまします」 悠に促されてソファーに腰掛けた。悠はいつもみたいに隣に座らず、俺の正面に座った。 何から話せばいいんだろう。お互い言い出せず、気まずい空気が流れる。先に沈黙を破ったのは悠だった。 「あの女のことも、俺の過去のことも、全部話す。けどこれから話す内容は決して褒められたものじゃない。颯人に軽蔑されることも、嫌われることも覚悟の上だ」 「前置きはいい。それで?」 「…有賀にもう聞いたかもしれないけど、颯人に出会う以前の俺は交友関係が酷かった。その…」 「女を取っ替え引っ替えしてたって?」 遠慮なく俺が言うと、悠がさらに気まずそうな顔をする。だが話すのをやめることはなかった。 「端的に言うとその通り。誰にも興味がわかなくて、求められれば応じる。性欲も人より少し…というか割と強い方だからちょうど良かったんだ」 「クズか」 「クズでした。でも颯人と会ってから、颯人しか見えなくて。初めて人を好きになった。それからは全ての女との関係を切った」 「じゃあさっきのマンションに連れ込んだ女は?」 「一人だけ…すごくしつこい子がいたんだ。ずっと付き纏われてて、もう会わないって言っても聞かなかった。そのうちストーカーみたいになって…」 「自業自得じゃないのか」 我ながら容赦ない言葉を投げかける。だが確かに過去の悠は酷く冷たい男だったようだ。
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