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「でも颯人に触れるほど、どうしても欲が昂まる。つい手を出しそうになるから…発散しようとした」
やっぱりな。
要するにあの女の性質と、悠の性欲の問題だったわけだ。
「なるほどわかった。歯食いしばれ」
俺が言うと、悠はグッと覚悟を決めたような顔をして目を閉じた。
俺は手加減なく悠の頰を引っ叩く。パァンという小気味良い音が響いた。
「…お前はどうしようもないやつだよ、悠。どうしようもない馬鹿で、それでいて不器用なやつだ」
「……ごめん」
「でもな、俺がうやむやな態度をとっていたのも悪いんだ。それは痛いほどわかっている」
「それは…」
「本当にごめん悠。俺のせいで、辛かったよな」
俺は悠を抱きしめる。俺の身長が足りないせいで不格好だけど、これが精一杯だった。
「だからな、お前も俺のことを殴ってくれ。それでもう…この話は終わりにしよう」
「…メロスみたい」
悠は俺の腕の中でクスッと笑う。俺は案外真面目に言っているのに。
「笑い事じゃないぞ。さあ、殴れ」
俺は悠から少し離れて両腕を広げて見せた。だが悠が殴りかかる様子は一向に無い。
悠は静かに微笑んでいるだけだった。
「俺が颯人のこと、殴れるわけないでしょ。こんなに可愛くて、大好きなのに」
「でも…」
「どうしてもっていうのなら、別のにさせて。颯人を痛めつけることは、今の俺には絶対できない」
やっぱり悠はどうしようもない馬鹿で、俺にはとことん甘い奴だ。でもそれに絆されてしまったんだから、どうしようもなかった。
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