海月

自覚

「あとね颯人、俺抱いてないよ」

「は？」

俺はポカンとしてしまった。

「有賀から電話がかかってきたってのもあるけど…その、勃たなかったんだ」

俺は何を聞かされているんだ。だが悠は至極真面目な顔をしている。

「…悠って、EDだったのか？」

「んなわけないよ！　颯人に触れるときいつも必死に抑えてたし、勃ったのを隠してた時もあったよ！」

「じゃあなんで…」

「あの女を見てもどうしても颯人の顔がチラついて。気がつくと颯人と違う箇所ばかり探してた。そのうち、俺が本当に欲しいものはこれじゃないって、どうしても勃たなくなった」

真面目な顔をして何を話しているんだこいつは。聞いているこっちが恥ずかしくなる。まだ何か話そうとする悠の口を手で塞いだ。

「もう、いいから。わかったから。…俺も悠に言わなきゃいけないことがあるんだ」

こんどは悠がキョトンとした。

心臓が早鐘を打つ。恥ずかしくてたまらない。でも言え、言わなきゃ。悠だって散々俺に言ってくれたんだから。

覚悟を決めて悠の顔を真っ直ぐ見つめる。

「あのな、俺は今まで悠の気持ちをどう受け止めたらいいか分からなかった。悠と一緒にいると楽しいし、良いライバルだと思っている」

「俺もだよ」

「だから友達じゃダメなのかって、ずっと思ってた。友達と恋人の違いが分からなかったんだ」

「……」

「でもな、やっと分かったんだ。鈍すぎるし遅すぎるけど、やっと分かった。悠が女とマンションに入るのを見て、俺がどんな気持ちになったと思う？」

こんな質問、悠を困らせるだけだ。でも俺にはこんな不器用な言い方しかできなかった。
だが悠は真剣な顔で俺を見つめている。