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するとどこからともなく柱時計の音が聞こえた。ふと壁掛け時計を見るともう5時だった。
「時計がなってるね。うちの一階の大広間に柱時計があるんだ。ところで時間は大丈夫?」
悠がちらりと俺の顔を見る。
「そろそろ雅樹が帰ってくるから…帰らなきゃ。今日は色々と、ごめん。そしてありがとう」
「ふふ、シンデレラみたいだね。こちらこそ。…俺たち、ずいぶん時間がかかったね。ここまでくるのに」
「そうだな。でももう回り道はしない。思ったことはちゃんと悠に言う。あんな嫉妬に満ちた不愉快な思い、二度としたくないから」
そう言って俺は立ち上がった。
窓の外には綺麗な夕焼けが映っている。いつもは儚く感じる夕焼けが、今日はやけに美しく見えた。
自分の気持ちに臆病な俺に、勇気を与えてくれる気がした。
きっともう、大丈夫。
迷わないから。俺は悠の方へ、真っ直ぐ歩いていくだけだ。
「駅まで送るよ」
「いい」と言いかけて、口をつぐんだ。そうじゃないだろ、本当は駅まで一緒に居たいだろ。
ゴクリと唾を飲み込む。
「ありがとう」
今までの俺なら言えなかった言葉が、やっと言えた気がした。素直になるってきっとこういうことだ。
更に勇気を出して、俺は悠の手をギュッと握りしめた。
「行こ」
「へ?」
俺の珍しい行動に驚いた様子で、悠が間抜けな顔をする。それでも俺はお構いなしに悠を部屋の外は引っ張った。
いつも余裕綽綽な悠が俺に振り回されているようで可笑しかった。
素直になるのも、悪くないのかもしれない。
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