自覚

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「あまり周りには言ってなかったんだけど、俺そろそろ留学するんだよね。やりたいことがあるんだ」 そう言うと和也くんは顔を輝かせた。こうして見ると、年相応の無邪気な顔だった。 前みたいな和也くんよりよっぽど良い顔してる。 「良かったな、頑張れ。どこに行くんだ?」 「イギリス。こう見えて俺けっこう読書家でさ。特に英文学が大好きだから本場で勉強したいんだ」 和也くんが…読書? あまりにイメージと違いすぎてぽかんとしてしまった。その様子を見て悠がクスリと笑う。 「全然本読まなそうでしょ。でも実は和也ってかなり優秀なんだよ。今回だってあのイギリスのK大学に入学するんだもんね」 「実はってなんだよ。でも過去の自分がヤバかったのは認めるし…でも、改心したから!」 開き直ったように笑う。 「俺は和也くんのこと応援しているよ。そんなにハッキリとした目的があるのなら、きっと有意義な留学になるさ」 「だよね、俺もそう思う。…にしてもやっぱ颯人さん美人だなぁ…」 ポツリと和也くんが言うと、悠は和也くんの頭を軽く叩いた。 「恋愛は懲り懲りなんじゃないのか?」 目が完全に笑ってない。 その様子に和也くんは慌てて首を振った。 「冗談だって!懲り懲りなのも本当だから!」 「ふふっ、和也くんたまには連絡してね」 「もちろん。待ってて」 そう言って悠によく似た目元で微笑んだ。 それからしばらくしてイギリスから和也くんの手紙が届くことになるのだが、それが「腹黒な英国紳士に捕まった。助けてくれ」なんて無自覚の惚気にまみれた内容だなんて、この時はまだ知らない。
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