2399人が本棚に入れています
本棚に追加
その後俺は和也くんに別れを言って家を出た。
隣には悠が歩いている。さっき両思いになったばかりで、付き合い始めたばかりで、なんだか気恥ずかしかった。
先ほどから沈黙が続いている。どうしよう、なんか言ったほうがいいのかな。
「あっ、あのさ!」
俺が意を決して声をかけると、悠はこちらを向いて首を傾げた。
「どうしたの?」
「…あー、えっと…好きな食べ物は、なんですか…」
やばい、なに言ってんだ俺。話しかけたけど何を言うかは全然考えてなかった。小学生の自己紹介じゃあるまいし。
悠も少しポカンとした顔で質問に答える。
「え、えっと…アイスかな」
「そっか…冷たいものが好きなのか?」
「まあね。かき氷とかも好き」
「名前の通りだな」
会話が途切れる。なにこの気まずさ。
すると隣で悠がクスクスと笑った。
「颯人は?颯人はなにが好き?」
「甘いもの…特にチーズケーキ」
「うん知ってる」
「じゃあなんで聞いたんだよ」
「気まずくて必死に話題を探してる颯人が可愛いから…かなあ?」
あっ、考えてることがバレてる。
「焦らなくてもさ、気まずくても、一歩ずつ進めばいいよ。俺たちの関係はまだ始まったばかりなんだから」
「うん…そうだな」
「駅着いたよ」
その後俺は手を振って悠と別れた。
夕焼けの車内から外を見る。そこには駅でまだ俺の電車を見つめる悠がいた。
どこか切ないような、どこか嬉しそうな顔をして。
恋人になったんだ。両思いになったんだ。
心がなんだかフワフワする。丸くなってジタバタしたくなる。
目に映る夕焼けのオレンジは、甘酸っぱい色に塗り替えられていった。
最初のコメントを投稿しよう!