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「らしさ」
悠と付き合い始めて一ヶ月が経とうとしていた。
俺たちは無事に大学に入学し、新しい生活が始まりつつある。交友関係、活動場所など様々な環境が移ろい行く中、全く変わらないものがあった。
「颯人ー、部活いこー」
「おう、ちょっと待ってて」
氷室悠、こいつである。
やってることは付き合う前となんら変わりがない。一緒に部活して、走って、悠のマンションでダラダラ過ごす。
一緒にいるだけで十分楽しい。その気持ちに嘘はない。だがそれだけでいいと言えばそれは嘘になる。
俺は悠のことが好きだ。恋愛という意味で好きだ。きっと悠だってそう思ってくれているはず。
だったら走ったり、マンションでダラダラする以外のことをしたいとも思ってしまう。
デートに行きたいし、手を繋ぎたいし、抱きしめたいし、キスだってしたい。そういう雰囲気になったら、それ以上のことだってしてみたい。
でも付き合い始めてからそういう雰囲気にほとんどならない。せいぜいキスをするだけ。
もっと恋人らしいことをしたいと思うのは俺だけなのかな。もっと悠を独占したいと思うのは悪いことなのかな。
デートらしいことだって一回もしてない…。
どうしよう、恋人として自信がなくなってくる。
付き合う前はあんなにグイグイ来ていたのに、悠はどうしてしまったんだろう。随分控えめになってしまった。
でも、もっと恋人っぽいことしたいなぁ…。
そう思いながら、俺は二枚の遊園地のチケットをギュッと握りしめた。
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