「らしさ」

5/29
前へ
/188ページ
次へ
そのまま俺たちはジェットコースターに着いた。やはり遊園地一の人気アトラクションとだけあって、長蛇の列ができている。 「うわ、結構並んでいるね。颯人大丈夫?」 列を眺めて悠は眩しそうに目を細めた。 「並ぶのは嫌じゃないから平気。悠さえ良ければ並ぶよ」 「俺も平気だよ。それに颯人といっぱい話せるしね」 そう言って悠は俺の肩を抱いてジェットコースターの列へ並んだ。密着してドキドキしたのも束の間、すぐに悠の腕は離れていく。 その瞬間物足りなさや寂しさを感じた。 周りは人でいっぱいだ。たしかに悠はイケメンだしスタイルがいいから人の目を引くけど、誰かにずっと見られているわけじゃない。 一々俺たちの動作なんて気にもしないだろう。 そう思って悠の手をチラリと見た。 男らしく骨張った、俺より少し大きな手だった。 繋ぎたい…。 あわよくば恋人繋ぎをしてみたい…。 手を繋ぐときって、どうするんだっけ。漫画やドラマでは、彼氏が自然に彼女の手を握りしめていた。 タイミングが重要なのだろう。それに違いない。 ところで手を繋ぐタイミングっていつだ? 急に繋いだら悠はきっとびっくりしてしまうだろう。せっかく繋いだ手を離されてしまうかもしれない。 先ほどから悠と他愛のない会話を続けている。 しかし俺の脳内は手を繋ぐタイミングに集中しすぎて、内容がロクに入っていなかった。 気がつくと、なんとなか相槌を打つだけになってしまった。その様子に悠が眉をひそめる。 「颯人、どこか上の空だけど大丈夫? どこか具合悪い? それとも悩み事?」 「えっ、いやいや! 違う。なんでもない!」 とっさに誤魔化すと、悠はまだ疑わしそうな顔で「ふぅん」と言った。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2399人が本棚に入れています
本棚に追加