「らしさ」

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一度自信をなくすと、その後何もかもうまくいかなかった。 並びながら手を繋げたら良いなって。 あわよくばお化け屋敷とかの暗闇でキスできたら良いな、なんて。 馬鹿らしい。おとぎ話みたいだ。 現実は隣で歩くのが精一杯なのに。 俺が何かしようとしても、タイミングが合わなかったりして上手くいかない。悠に避けられているのか?と疑うレベルだ。 今こうしている間にも、俺は手を繋ぐことを試みている。 距離が近い。この感じで自然に繋げばいけるのではないか。 そう思ってドキドキしながら、悠の右手に俺の左手を伸ばしかけた時だった。 「…っ少しあついね。向こうでアイス売ってるから俺が買ってこようか」 そう言って悠の右手は少し離れたアイスの屋台を指差す。 まただ、また遠くなった。 もうこれ確信犯じゃないか?そうとしか説明がつかないのでは? だが俺はそんな負の感情をおくびにもださなかった。それはただ、悠に嫌われたくないから。 「ああ、ありがとう。…じゃあ俺はそこのベンチで待ってていい?少し疲れちゃって」 ちょっと、一人にさせてくれ。 そんな言葉は奥歯で噛み潰した。 「わかった。行ってくるね」 「…ありがとう」 ダメだ、笑え。 めんどくさいやつって、重いやつって思われるだけだ。そう思われるのだけは嫌だった。 ベンチに座って目線を膝に落とす。俯くと、重力が急に強くのし掛かる気がした。爪先から伸びる影が、不安定に揺らいで見えた。 難しいな、恋って。本気になる程難しい。 「恋人らしさ」ってなんだろう。
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