「らしさ」

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悠に連れてこられたのは、人気ない広場にある木陰のベンチだった。ベンチに着くなり俺は崩れ落ちてしまう。悠はそんな俺の隣にゆっくりと腰をかけた。 「疲れた?」 そう言ってなんでもないように、悠は俺にアイスを差し出した。今にも溶けそうなそのアイスを、俺はそっと受け取った。 「…ごめん、誘ったのは俺なのに」 「それは別にいいんだ。俺はね、颯人の気持ちを聞きたい」 「気持ち…?」 「颯人は、俺と一緒にいて辛い? 苦しい?」 そんなことない、とは言えなかった。 思い出せば、今日一日苦しい感情ばかりだった。 「俺は…悠を見てると苦しくなる。悠はイケメンだし、人目を引くし。隣にいるのは俺でいいのかって思う」 「いいんだよ。俺は颯人がいいんだ」 「でもデートなのに手もロクに繋げないし、友達と何が変わらないんだ? あの男たちからも蔑まれるし、俺は悠に捨てられそうで怖い」 「颯人、俺はね。颯人に焦って欲しくないんだ。元は俺がぶつけた感情だし、颯人が戸惑うのは当たり前なんだよ。焦って恋人らしくなる必要なんてないよ」 優しく悠はが俺の背中を撫でる。だが俺の昂った感情は治らない。 「なんだよ、恋人『らしさ』って! 『らしさ』を探すのはもう疲れた。……俺ばかり空回りしてバカみたいだ」 ごめん、こんなこと悠に言いたいわけじゃないのに。
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